ショートカット02-03



一人、珍奇な衣装で街を彷徨う真佐美。

だが、、、、、、、電車にも乗れない、連絡も取れない、、、、、
だが、、、いったい、、どこへ、、、、そして、、、だれに、、、

もはや、脳裏に絶望しか浮かばぬ真佐美は、ふらふらとあてどもなく街をさ迷うしかなかった。

そして、その真佐美に向けられる様々な見知らぬ人々からの視線。

これが普通のジャージでせめてスニーカーでも履き、更に胸を張って颯爽と歩けば、セレブのウォーキング
トレーニングであろうが、それがどう見ても寸足らずのジャージはくすんださえない臙脂色であり、
なにより豊満な真佐美の双乳を無理やり抑え込んでいる胸元のボリュームは乳首までクッキリと浮かび、
卑猥この上ないし、なにより大きく開いたままの胸元からは、今にも零れ落ちんばかりの巨乳の谷間が
覗き、おまけにチラチラとヘソまで見えているのだ。

そして素足で、それも粗末極まりないサンダル履きで、剥き出しに巨乳を揺らしながら歩く女、、、、、
そんな自分が周囲からどう見られているかを思い知らされたのは、放浪(?)に疲れ、とある公園の
ベンチで休憩しようとした時の事であった。

公園にはごく普通の、未就学児と、それを遊ばせている母親達が何人かいたのであるが、入り口から真佐美が
現れた途端、偶然そちらを目にした年若い母親がそれに気付き、思わず眉を顰めてしまう。
そして、それに気付いた周囲のママ友もその視線の先を見て、、、やはり同じように、控え目に言っても
訝しむ視線を、その女性へ向ける。

そして、、、、、、
「、、、ねぇ、、、あそこ、、、あの人、、、、、」
「、、、いやぁーーねぇ、、、こんな時間から、、、、、、」
「、、、それにあの格好、、、、、、」
確かに平日の昼間からいい年をした大人の女性が、しかも一人で公園に来るのは不自然であろう。
しかも、その格好が不釣り合いなジャージ、それも大きく胸元を覗かせ、しかも足元がサンダルでは、、、、
年若いママさん達も、流石に周囲を憚り小さな声でヒソヒソと話すが、その分内容は容赦無い、、、、、

「、、、、ねぇ、、、ちょっとオカしんじゃなぃ、、、あの人、、、」
「、、、うん、、やぁねぇ、、、」

だが、まさかにも自分がそのような目で見られている等とは思わぬ真佐美、ベンチに座ったまま、ぼんやりと
周囲を見回す。
そして、砂場近くに集団でいる年若い母親と幼児達の集団に気付く、、、、、、

その集団の中にかつての自分、、、、忙しい夫を手伝いながらも、誰よりも愛しい娘である真由美を連れ、
近所の公園を訪れた自分を重ねてしまう真佐美。
そして、偶然であろうが、自分と同じく、年若い母親となってしまった真由美を手伝い、忙しい学校の
職務の合間を縫って、やはり愛しい佐和子、昭夫を伴い公園を訪れた事を思い出す、、、、、、、
『、、、、あぁぁ、、、あんな頃が、、、あんな、、、、、あの頃に、、、、』

だが、、、、もはや取り返しのつかない現実に気付き、思わず涙が込み上げて来る真佐美は、堪え切れぬ何かに
推され、その両手で顔を覆うと俯いてしまう。
そして、、、、、その指の透き間から、、、ポタポタと大粒の滴が地面を濡らしていく、、、、


そんな、懸命に嗚咽を堪える真佐美に突然掛けられた若々しい声。
『真佐美せーんせっ、お元気?』

それは、なんとあの全ての発端となった、悪魔の様な少女、和美と由佳ではないか。
そして、まるでごく普通の挨拶の如く、話し始める2人。
『もぉ、、探しちゃったぁ、、、』
『お部屋行ったらいないんだもんっ、、、、うふ、中々素敵な格好ね、、お似合いよ。』

ベンチに座る自分を見下ろしながら、その嘲笑交じりに告げる少女たちの台詞、、、、、、
それに気付いた時、力を失っていた真佐美の瞳が、ゆっくりと輝きを取り戻し、、、、、、

『、、、!!、、、、、』
なぜ、笑っていられる、、、、、、
なぜ、話しかけられる、、、、、、
なぜ、、、、なぜ、、、、、
そんな様々な思いが一瞬脳裏をかすめ、、、、、、
そして、もはや堪え切れぬ激情のまま、その全ての元凶である少女達に、むしゃぶりかからんとする真佐美。

しかし、そんな彼女に、突然にまた新たな声が掛けられる。

『もしもし、、どうされました?』
その威圧感溢れる冷徹な響き。他者を圧倒しなれているであろうその声に、思わず立ち止まった真佐美が
振り向くと、なんとそこには警察官と婦警が2人でこちらを、まさに睥睨しているではないか。

そして、もはや見境すら失った真佐美は、これ幸い、これまでの全てを訴え様と警官に向き直り、
その少女たちの悪行の全てをブチ巻け様としたのだが、、、、、、

なんと、警官は明らかに自分を威嚇しているではないか、そして婦警は少女たちへまっすぐ向かうのだ。
そう、、、警察官は自分から少女たちを守るかの様に、それはつまり、明らかに自分を警戒しているのだ。

『!?、、、!!、、な、、、だ、、、、そ、、』
そのあまりの状況にもはや言葉も無く、激高する真佐美は混乱のあまり、ロクにしゃべる事すら出来ぬ。
だが、婦警はそんな自分を警戒しつつ、少女たちへ優しく声を掛けている。
『あなたたち、大丈夫だった、、、あの人から何かされなかった?、、平気、、ケガとかしていない、、、』

そして、更にショッキングな事を告げる警官たち。
『、、実は公園に不審な人が居る、、、、と通報がありましてね、、、、、』
と、丁寧な言い方ではあるが、明らかに自分を警戒しながら言う警官たち。

それを聞いた真佐美は、思わず、先程まで近くに居た若いママ達を探すのだが、、、、、
なぜだか、彼女たちはその誰も彼もが各々の幼子を固く抱き締めながら、先程の場所を離れ、今は
公園の入り口に固まってこちらの様子を伺って居るではないか、、、、、、
そして、、そのこちらを伺う表情は、、、、、、、

警官たちが来たおかげで、安心したのか、もはや蔑みの表情を隠そうともしないママさん達、、、
そして、真佐美は気付いた、、気付かされてしまった、、、、、、
通報をしたのが彼女たちである事を、、、、、
そして、、、自分は、、今の自分は、、、見知らぬ人々から、、警察へ通報されてしまう程の、、、、、
あんな幼子に危害を加え兼ねない程の不審人物に見られている事を、、、、、、

かつて、、、いや、、ほんの少し前まで、、、多くの人々、、、特にあの様な幼子を抱いた若い母親達から、
羨望と憧憬の瞳を向けられていた自分が、、、、、
そのあまりの衝撃に愕然とする真佐美を、更なる衝撃が襲う、、、、、
警官たちが油断しない視線を向けながら、自分に問いかけて来た台詞によって、、、、
『、、それに、、きみ、、、いま、、なにかしようとしていたようだが、、、、、』

『、、、な、、、なんで、、、、なんで、、、、なんでなの、、、、』
そう、、、、真佐美は今度こそ確信してしまった、、、、のだ、、、、、、、
イィ年をして、大きく胸元をはだけたジャージ姿とサンダルで街をうろつく女性と、名門私立高の制服を身に
纏った美少女2人、、、、、いったい、どちらが不審者なのか、、、、を、、、、

そして、ぼうぜんとする真佐美を他所に少女たちが口を開いた。
『あぁ、大丈夫です、お巡りさん、その人、ウチの病院で以前食堂にいた派遣のオバさんなんですけど。』
『派遣切りに会っちゃったみたいなんです。だから、、、ちょっと、、、逆恨み、、、かな、、、』
『、、な、、、何を言い出すの、、、』

少女たちのあまりの説明に思わず言葉も失う真佐美であったが、『派遣切り』の台詞にこれまで自分を
睥睨していた警察官の雰囲気が一気に変化、柔らかいものに代わっていくのが露骨に感じられ、戸惑うどころか
あぜんとする真佐美。

だが、少女たちの作り話は止どまるところを知らなかった。
『私達も気になっていたんですけど、寮も出されて、なんか、ホームレスになったって聞いて。』
『ここで、偶然に会ったんで声をかけようとしただけです。』
『そういえば、前、パパに聞いた時、トイレ掃除ならあるって、言われてたの思い出して、、、』

『ホームレス』の単語にもはや、隠し様の無い程、そして痛いほどに露骨な哀れみの視線に晒される真佐美。
だが、、、、、『派遣切りされたホームレス』と説明されても、違和感無く受け入れられてしまう。
自分は、、、今の自分は、第三者から見て、、、そんな風に見れているのだと言う事実に、最早、真佐美の
心は今にも壊れてしまそうな位の衝撃を受けてしまう。

そして、『ウチの病院』『パパに』と言う少女の台詞、たしかにその名門校の制服と言い、身なり、
持ち物等から、警官もその少女の台詞を丸呑みにし、病院経営者の令嬢と信じ切っているらしい。
    (もちろん、真佐美はまだ知らぬが、それは事実なのであるが、、、、、)

そして、そう信じた警官からの真佐美に追い打ちを掛けるかの様な言葉がかけられる。
『、、あの、、さっきはキツイ言葉を掛けて、ごめんなさい、、そんな事情があるとは思わなかったの。』
自分の娘よりも、遥かに年下、自分から見ればまさに少女の様にしか思えぬ婦警から哀れみで
掛けられる言葉が、真佐美の心を更に傷つけて行く。
『、、でも、、でも、おトイレ掃除でも、お仕事があるなら、、、ね、、、』

基本、民事不介入が原則であるし、なにより『派遣切り』が相手では、ちょっと介入しずらい、、、、
これが明確に暴力行為等でも働けば、当然『確保』だが、現時点では、そこまでいっていない。
まして、富裕層と貧困層の確執には、正直、昨今の情勢からあまり安易に立ち入るのは如何なものか、、、、
そんな小役人みたいな発想により、真実から遥かに遠く離れてしまった結論に落ち着いた警官たち。

そして、そのまま、まさに何も知らぬとは言え、諸悪の根源である少女たちを礼賛すらしかねぬ言葉を
真佐美にかけ、その場を立ち去ってしまう警官たちであった。
『良い子達じゃないですか、、派遣切りでも、わざわざ探して、面倒を見てくれるなんて、、、』
『ねっ、、逆恨みなんかしないで、、新しいお仕事、頑張ってね。』

後には、もはや、絶望すら感じぬ真佐美と、勝ち誇ったかの様な少女たちが残された。
『うふ、、、捕まらなくって良かったわね、、『派遣切りにあったオバさん』、、うふふふ。』
そう、楽しげに真佐美に声を掛ける和美。
『黙ってるから、あっさり信じちゃったわね、、お巡りさんたち、、、、』
『まぁ、、、仕方ない、、かな、、、そんな格好じゃ、、ね、、、』

そう言いながら、ジロジロと好奇の視線で、真佐美の珍妙な、、いや、、はっきり言えば破廉恥そのもの
である、小さなジャージが今にもハチ切れそうである、豊満な胸元も露わな姿態を見つめる2人。

だが、そんな言葉で我れに還ったのか、悔しげな瞳に涙を滲ませながら、懸命に言い返す真佐美。
『、、ふ、ふざけないで、、いいわ、言うから、、あなた達のしてきた事、全部、、全部、、』
もはや、覚悟を決めたのか、端正な美貌を蒼白にしながらも、キッと少女たちを睨みつけ、震えながらも
キッパリと断言する真佐美。

限界だ、、、もぅ、限界である、全てを失い、、、ホームレスとまで蔑まれ、、、、、、、、
これ以上、、何も失うものなど、、、何も失うものなど、、何も無いではないか、、、、、
そう考えた真佐美は、遂に言い放ってしまう、、、、

『と、特に、あの、、あの、変なクスリ、、のこと、、あれが、、あれがバレたら、、、』
そぅ、、あの時、、あの時吸わされたあのクスリさえ無ければ、、あれさえ無ければ、、、、
だが、今はそれが真佐美の最後の切り札であった。

薬物への目が厳しくなっている昨今の情勢。
悪魔の様ではあるが、れっきとした(?)女子高生を訴えるのは、、、、、と思わぬでもない、、、
そして、それを吸引した自分も、あるいは、、いや、間違いなく罪に、、、、、
だが、、ここまで嬲られては、、、、蔑まれては、、、、、

しかし、その真佐美の自爆覚悟の訴えにも、互いに顔を見合わせた少女たちは、一瞬、間を置くと、
臆するどころか大声で笑い始めたのである。
「きゃはははは、、」「やっだぁ、、マジ、チョー、受けるんですけどぉっ!!」
「???、、、!?、、、な、なに、、ほ、本気よ、、私、本気よ、バレたら、あなた達もバレたら、、」

あまりに予想外の反応を示した少女たちに、真っ赤な顔をして改めて訴える真佐美。
だが、そんな真佐美を尻目に、バックからなにやら取り出したのは、、、、
「うふ、クスリってこれ?」
再び目にしたのは、間違いなくあの時少女たちが自分に使った小さなスプレー。

その悪魔のクスリに脅え、思わず後ずさる真佐美だが、次の瞬間、思わず硬直してしまう。
なんと、その少女たちは、まったくためらいもせず、自分の口を開いては、シュ、シュシュッとばかりに
スプレーしたのだ、、、、
更におどけた様子で互いの口に向けてスプレーし合う少女たち。

『、、、!?、、な、、な、、んで、、!?、、、!!、、、ま、、ま、さか、、まさか、、、』
信じたくない事実、、、、だが、、、、それは、、、現実、、、、、
そのあまりの事に、足元が揺らぎ、、思わず、ペタン、、とばかりに地面に座り込んでしまう真佐美。

『うふ、やっと気付いた、、これ、、ただの口臭スプレー、、、輸入モノだから、何も書いてわけ、、』
『ちょっと使って見る?、理事長先生、、、』
その言葉と共に、眼前に差し出された小さなスプレーを引ったくるかの様に奪って、血の気の引いた顔で
改めて確認する真佐美、、、

『、、、こ、これ、、、これ、、じ、、じゃぁ、、、じゃぁ、、、、』
何度見直しても、あの時のものに間違いなく無いのを確認すると、蒼白となった真佐美は、もはやロクに
声も出ない有り様である、、、、

そして、その事実、、絶対に認めたくない事実を容赦無く指摘する少女たち。
『そぉ、、だから、、理事長先生は、自分の意志で、、自分から望んで、アンなこと、しちゃったの。』
『クスリのせいに出来なくてお気の毒様、、、とってもエッチな理事長先生。』

『ヒッ!!ヒィィィーーーッッ!!』
その冷然とした事実の指摘に、もはや辺り構わず、悲鳴を上げて、頭を抱え込む真佐美。

『こ、壊れる、、心が、、壊れる、、、壊れてしまぅ、、、』
どこか理由を求めていた、、、、
勿論、その状況に追い込まれたのは、相手があってのことである、確かに自分に原因があるのだが、、、、、、
心のどこかで、、、『クスリのせいなのよ、、、(ホントは私、悪くないの)、、、』との思いがあった、、、
当然、今更、誰に言えるでもないし、、、何より、言ったところで、、、、何も変わらぬ、、、、
しかし、、、どこかで、、言い訳をしていたのだ、、、、『クスリのせいなのよ、、、、』と、、、、

だが、違った、、違ってた、、クスリなどでは、、、無かったのだ、、、、、
全ては自分が、、自分の意志で、、、自分の意志だけで、、ヤってしまった、、シてしまった事なのだ、、、、
そのあまりの事実に、もはや瞳の力さえ失われた真佐美は、ただ、座り込み、ブツブツと何事かを
いい続けるだけであった。


そして、そんな真佐美の崩壊を楽しげに眺めていた少女達は、もはや、ただ、ブツブツと呟くだけに、
なった真佐美を左右から抱える様にして、立ち上がらせるとその場を離れた。
『うふ、ちょっとぉ、、さすがの理事長先生も、、ダメ、、かしら、、、まぁ、良いわ、さっ、来て。』

そんな一行の向かう先は、タクシーを経て、郊外の小さな市街地、その外れであった。
そして、まさにうらぶれたと言う表現しか当てはまらぬ様な小さなアパート前に止まるタクシー。

『はぃっ、ちょっと、これから少しの間、ここで寝泊まりしてね、ハィこれカギ、、、、』
『じゃぁ、私達、忙しいからこれで帰るけど、、あぁ、、あんまりそんな格好で出歩かない方が良いわよ。』
『、、、って、、聞いて無いけど、、、まぁ、いいか、、、』

と、たった、これだけのやり取りだけで、真佐美をアパートの室内に押し込むと、
まさに逃げるかの様にその場をタクシーで立ち去る2人。 
   (既に、真由美家族を嬲った際の段取りもあり、似た様な状況であるから実に段取りも鮮やかである。)

後に残されたのは、先程の衝撃の事実から、未だ立ち直れぬ真佐美だけであった。

その室内、未だ、真佐美は気付かぬが、とりあえず、電気、水道、ガスは使えるし、小さいながらも
ユニットバスまである。
そして、驚いたことに、見るからに安物ではあるが、布団まで1組用意されており、更には菓子パンや
ペットボトル程度だが、なんと食料まで置いてあったのだ。

雨戸が閉まったままの空虚な部屋の中央、、無造作に敷かれた布団の上に1人、ペタンとだらし無く
座り込んだままの真佐美、、、、

だが、ようやく口にした、微かな声は、、、、
「、、、う、そ、よ、、、うそだわ、、、こんな事、、絶対に、うそ、、わ、、、」
今朝まで、過ごしていた豪華なマンション、、、、、、
地味ながら肌触りの良い、高級な衣服、、、、、
住み心地の良い、快適な部屋、、、、、、

だが、今居るのは、、、、ろくに日も射さぬ古ボケた場末のアパートの1室、、、、、
下着すら許されず、胸元も露わで素肌に纏ったジャージは窮屈であり、更にチクチクと柔肌を刺激する、、、、
更に、、、排水が悪いのか、異臭の漂う狭い室内、、、、、
そして、、、、もはや、、仕事どころか、、、行く場所すら自分にはないのだ、、、、

そして、その全ての原因は、、、、、、自分、、、、

その、あまりの事態の激変に、もはや真佐美の精神は限界であったのだろう、、、、
「、、、う、、、うぅぅっ、、、うわぁぁーーーーっっ、、、あぁぁぁーーーっっ!!」
堪え様の無い程の嗚咽が漏れたかと思うと、慟哭としか言い様の無い位に、大声で泣き叫び始める真佐美。

自分のしでかした罪、失ったものの大きさ、、取り返せぬ過ち、、、、
もはや堪え切れぬ感情の全てをハキ出すかの様に、いつまでも、、、いつまでも泣き続ける真佐美。
、、、、、やがて、、幼子の様に泣きつかれると、その場で薄い布団に包まって眠り、眼が覚めると、
苛酷な現実に耐え兼ねて、また泣き崩れる。

そして、どうしようもなく、空腹になると、手近なパンに手を伸ばし、単に腹を満たすためだけに口にする。
いったい、どれくらいその生活をしていたのか、、、、、
TVどころかラジオすら無い生活、、、
雨戸すら開けぬ室内はいつも空気が澱み、異臭すら漂うがもはや、真佐美には何の苦痛も感じてはいなかった。

そぅ、、それは、、僅か1ー2日だった様な気もするし、、いや、10日はそこに居た様な気もするが、、、、
だが、全てを失った真佐美に、時間など今更何の意味があるだろう、、、、
そんな、ただ食い、排泄し、眠るだけの、、まさに動物の様な生活をする真佐美であったが、、、、、

唐突にそれは終わりをつげる。
何の前触れも無く、部屋に侵入して来る少女達。
「お待たせ、、、、って、、、ちょっと、、くさぃ、、、あんた、、チョー臭い。」
『まるで、真由美達を廃村に閉じ込めた時みたい、、、、』
と、チラッと思い出す2人だが、余計な情報は与えぬ方が良いとの判断か、互いにニヤッと笑みを交わすだけ。

だが、、、、、そんな嘲笑にも、最早、真佐美は何の反応すら示さない。
「ちょっとぉぉ、、大丈夫?」
ここまで追い込んでおきながら、『大丈夫』も何もあったものではないが、ここで、既に完全に壊れていては
面白くない。

「うぅーーーんっ、、まぁ、平気でしょ、、ほら、ちょっと立ってよ、お出掛けよ、理事長。」
そう言いながら、強引に真佐美を部屋から引き釣り出すと、用意した車に乗せ、そそくさとその場を後にする。
そして、まず、向かった先は、少女達が良く利用している高級エステ店であった。

親の財力に任せ、超VIP会員の2人の指図と、過剰なチップに店員達は若干、、いや、かなりの疚しさを
押し殺し、車の中から女性をかつぎ出すと、テキパキとその女性に『お手入れ』をフルコースで実施する。
入浴、、、エステ、、、、全身のまさに隅々まで磨かれていく、、、、、、、

そして、少しずつではあるが、かつての美貌を取り戻していく真佐美。
だが、いったい、少女達の意図がどのにあるのかは判らぬが、既に反撃する気力すら失った真佐美は、最早、
ただの生き人形の如く、成すがままに、その豊満な肢体を整えられて行く。

やがて、その全てが終わった頃、、、、さすがに完全に元どおりにはならぬが、それでもとても52歳には
見えぬ位に若々しい容姿に戻った真佐美がいた。
むしろ、この短期間ではあるが、あまりに苛酷な体験、生活を経たせいか、余分な脂肪が落とされ、
また、若干の荒んだ表情が、美貌に暗い陰となり、凄艶とも思える程の色気すら漂わせているほどであった。

しかし、なぜか衣装は相変わらずのピッチリ、キツキツの古びたジャージである。

だが、とにかく、その出来上がりに満足したのか、再び、真佐美を車に押し込むとまた出発する一行。
もはや、まったく自分の意志すら無くしたのか、ただ、ボンヤリと車外を眺める真佐美であるが、その景色が
少しずつ見慣れた風景に変わって行く事に気付き始める。

そして、、、、なんと、、かつての真佐美の職場、、、**学園に到着した一行。
だが、、、だが、、なんとそこはもはやかつての学舎では無かった。

正門は堅く施錠され、大きなプレートが掲げられている。
車外へ無理やり降ろされた真佐美が、展開の早さに回らぬ思考でなんとか把握したその看板の内容、、、、

『**学園解体予定 ****』

『かいたい、、、かいたい、、って、、、な、に、、何が、書いてあるの、、、』
真佐美の中に微かに残された理性が、まさに完全に崩壊しようとしている、、、、、、

その真佐美を左右から挟むかの様に位置する少女達は、なんとも残念そうな芝居で見え見えの台詞を言う。
「うぅーーん、やっぱ、ダメだったかぁ、まぁ、生徒どころか、教職員一同が揃って転校、辞職じゃねぇ、、」
「建物は立派なんだから、せめて名前だけ代えて別な学校にすれば良いのにねぇ、、って無理、、かな、、」
「いや、ムリムリムリ、絶対ムリ、私だったら、そんな学校ゼッタィムリ。」

なんと、真佐美の全てであった学園、そこは早々と廃校、そして、更に全てが更地にされてしまうと言うのだ。

『失ってしまった、、、ホントに、、全て、、失ってしまった、、、、』
その、衝撃のあまりの強さ、、、もはや、実感すら沸かぬのか、どこか麻痺した様な感覚を覚えながら、
エステで復活した美貌を蒼白にしながら、傍らの少女達へ振り向く真佐美は、どこか歪んだ精神を思わせる
様な歪な笑みを浮かべながら、卑屈に呟いた。

「、、、も、ぅ、、どうなっても、、いぃわ、、、どこへでも連れてって、、どうにでも、、し、て、、、」
しかし、そんな真佐美に向けられる回答は、またしてもその意表を突くものであった。

一瞬、互いに顔を見合わせた2人は、一気に爆笑し会う。
「きゃははははっ、なぁーに言ってんのよぉ、もぅ、あんたなんか興味無いわよぉ、、、」
「そぉそぉ、いつまでも甘えないでよ、、大人でしょ、真佐美先生、自分の事は自分でなんとかしてね。」

そんな一行の脇を一台のバスが通り抜け、施錠されていた門を抜け学園の敷地へと入っていった。
どうやら、学園内に既に建設されているプレハブに詰める解体作業員がやって来たらしい。

そして、ボンヤリとそれを見つめる真佐美の耳元で和美が囁いた。
「うふふ、そぉねぇ、、あそこで、賄いのお仕事なんかお願いしたら、、どぅかしら、、、」
「あら、良いアイデァねぇ、それ、、そうすれば、、大切な学園の最後を看取る事が出来るわね、、、」

そして、真佐美の最後の仕事(?)が始まる、、、、、

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