4-11
満面の笑みを浮かべた京子から告げられた台詞が、マサミの耳に響いていく。
『コギャル』『パシリ』『見習い』、、、、、
マサミとて、教育者のはしくれ、それらの単語を知らないわけでもないのだが、今は何よりも『ここに住む』の
言葉の衝撃の方が強かった。
だが、その呆然としているマサミに駄目押しをするかの様に、別の選択肢を再度提示する京子。
「あらっ?それとも捨男の『お嫁さん』になりたいのかしら?なんだぁ、それならそうと早く言ってよねぇ、、
あの子、きっと大喜びでこのあいだ以上に熱心に可愛がってくれるわよ。さっそく、連絡しなくちゃ、、」
そう言って、携帯電話を取り出した京子の言動に、先日の悶絶地獄の記憶を思い出したマサミは、
大慌てで京子の先刻の言葉に同意する。
「!!!、、、ち、違います、、そうじゃありません、、そ、その、、ちょっと、お、驚いて、、、
住みます、、ここに住んで、、、み、、見習い修行、い、、致しますわ、、、」
いかに惨めな事が待っていようが、あのロクに意思の疎通も出来ぬ巨漢との果てしない性交の連続を再び繰り返すくらいなら、、
と、自分に言い聞かせるマサミ。
そして、そんなマサミを興味深く見つめる京子は、最後の指示を下す。
「ふふふ、じゃぁ、さっさと行きなさい。改めて念を押すけど、、あなた、その子の言う事には『絶対服従』よ。」
『でなけりゃ、あなたの代わりに可愛いお孫さん達が、、、ふふふふ、、、』
そこまで言われては、もはや退路を断たれたも同然である。
しかし、観念して、その異臭漂う建物の玄関に近付くマサミであるが、次第に強まる強烈な悪臭に足も鈍る。
そして、思わず振り向いて縋り付く様な視線を京子に向けるのだが、その内心を見通すかの様な京子の台詞が
マサミの耳に突き刺さるのだった。
「あぁ、念を押して言っておくけど、私は行かないわよ、そんな『臭い』とこ、お洋服に臭いが写っちゃうわ。」
わざとらしく、芝居じみたそんな台詞に加え、再度ハンカチで口元まで覆う京子の仕草に、改めてこれから自分が
向かうゴミ屋敷の状態を思い知らされるマサミ。
だが、これを断れば、またあの巨漢との、、、、、または佐和子達の身に危険が、、、、
そう自分に言い聞かせたマサミは、意を決して玄関へと入るのであった。
だが、その異臭漂うボロ下宿の内部は、想像以上のものであった。
文字通り、足の踏み場も無い程に、あらゆる生活廃棄物が散らばり、なによりもまさに鼻が曲がりそうな程に強烈な異臭。
しかし、他に選択の余地も無いマサミは、必死に吐き気を堪えて内部に入り、命令通りに2階の最奥の部屋を目指すしかない。
そして、ようやくたどり着いたその部屋の前でも、躊躇うマサミ。
扉は今時下宿の部屋の玄関には珍しい片引きドアだが、無用心(?)にも半開きのままであった。
そして、暫し躊躇った後、恐る恐る声を掛けるマサミ。
「、、、、し、、失礼、、します、、、、、、」
だが、返事はまるでない、、、、、、
何回か、それを繰り返すが全く反応が無い、、、、、、訳ではない、、、何か物音は聞こえるので無人ではないようだ。
いつまでも、そこにいられる訳も無いマサミが、少し扉の中を覗くと、、、、、
その全く日の当たらぬ、薄暗い部屋は、ほとんど家具らしいものもなく、目を凝らすとなにやら人形の様なものが、、、、
だが、なんとその人形(?)、、どんよりと生気のかけらも見当たらなく濁ったビー球の様な瞳がゆっくりと動くではないか。
そして、入り口に立つ人影に、ようやく気付いたかと思うと、、、、、、、、
「?、、、???、、、!?!?、、!!!!、、ヒィッ!!、ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!許して、許してぇっ!!」
と突然絶叫したかと思うと、両手で頭を抱えてうずくまってしまうではないか。
その異常な反応に、思わずあっけにとられるマサミ。
しかし、その明らかに何かに怯える少女を目の前にして、マサミの心の奥底の何かが揺さぶられずにはいられなかった。
そう、、、、如何にその身を汚されようと、風体を変えられようと、、、、例え全てを奪われようと、、、、、
マサミは教師であったのだ、、、、、
「、、だいじょうぶよ、、だいじょうぶ、、、怖くないわ、、、何も心配ないのよ、、、、」
思わず室内へ入って、その少女へ近付くと、そう、繰り返し何ども何ども優しく声を掛けるマサミ。
やがて、少しずつ落ち着きを見せ始める少女が、怯えた目付きでようやくマサミを見つめ直すのだが、、、、
その少女はおそらく年の頃はまだ、高校生程度であろうか、、、、、
おそらくと言ったのは、なんとその少女、かつて流行った、いわゆるガングロ山姥メイクで顔面を被っていたのだ。
そして、その少女はようやく落ち着きを見せたかと思うと、未だやや怯えを残す口調で問いかける。
「、、、、な、、、なん、だ、、、よぉ、、、、あ、、あんた、、誰だよぉ、、、、」
その言い方は、強がってはいるものの、如何にも言い慣れぬ、使い慣れぬのがありありと判り、正直の内心の怯えを
隠しているのが丸わかりの言い方である。
教師として、その様な口調の少女達との対応など、まさに数え切れぬ程経験してきたマサミは、まずは相手との
信頼を得るべく、再び優しく語りかけた。
「、、私は、、、マ、、マサミ、、、って言うのよ、、、き、、京子さんから、、、、こ、、ここで、、、」
「、、、、、?、、、、?!?!、、あぁ、、、、あっ!!」
そんな怯える少女に向け、『見習い』とか『修行』とかはさすがに言い兼ねて、言葉を濁そうとするのだが、
その『京子』の言葉を聞くと、思わず反応して大声を上げてしまう少女に説明を遮られるマサミ。
そして、その少女は突然に自分に覆い被さる様に身を乗り出していたマサミを突き飛ばすと、立ち上がる。
すると、その突き飛ばされた弾みで床上に倒れてしまったマサミを、今度は逆に見下ろす様にして、こう言ってのけたのだ。
「、、あ、、、あんただね、、、、今日からアタシの、、こ、、子分になるってのは、、、、」
「、、、あたしは、、、サ、、サコ、、、って言うんだ、、」
その『子分』の単語はともかく、豹変しすぎる少女の態度に思わずあっけにとられるマサミ。
だが、そんなマサミの戸惑いも気にせず、サコと名乗った少女は、どこか遠くを見つめる瞳でなにやら懸命に
思い出そうとしている。
「、、えぇ〜、、と、、、確か、、、『京子』さんは、、、**が、、**で、、グループ、、で、、」
失礼ながら、多少、頭の回転が鈍いのか、ぶつぶつと呟きつつ、何事か懸命に思い出そうとしている少女。
だが、それが数分も続くと、さすがに心配になったマサミが、再び問いかけるのだが、、、
「、、、、?、、、サ、、サ、コ、さん、、?、、、、大丈夫?」
「!!!!、、、あ、、アタシの事は、、サ、、サコ姐さん、、と言いな、、あ、、あんたは一番の下っ端なんだよっ!!。」
なんと、そうマサミに向かっていきなり宣言するその少女。
しかし、その強がっている口調からは、内心の怯えを隠しての高飛車に出ているのがありありと判り、つい自分の今の境遇も忘れ、
窘めてしまうマサミであった。
「、、、そ、そんな言い方、、、慣れてないでしょ、、、お、、およしなさい、、、」
「!!、、う、、うるせぇよっ!!なんだよっ!!、、え、、えらそうに、、あんとき、白目剥いてヒィヒィ泣いてたくせのよぉ、、」
「!!!!!、、、な、、、、え、、、、」
そのサコの言葉に、今度はマサミが思わず硬直する番であった。
そう、、、どうやら先刻の京子のマンションでの少女たちとの対面の際、そのサコと名乗る少女もいたらしいのだ。
その時のマサミは、半死半生の状態であり、とても相手の少女たちを観察する余裕が無かったのだが、対して
その少女は、じっくり(?)とマサミを観察していた様である。
「、、す、捨男のデカ○ンポ、マ○コにずっぽりハメられて、ヒィヒィ悶えてアヘ顔しちゃてさぁ、、」
自分の台詞でマサミが動揺したのに気付いた少女は、ここぞとばかりに責め立てる。
すると、その思い出したくもない、忌まわしい記憶に触れられて、今度はマサミの方が、聞きたくないとばかりに
耳を塞いで蹲ってしまった。
まさに、先ほどとは完全に逆転してしまった互いの立場。
すると、相手が弱みを見せると、ここぞとばかりに責め立てるヤンキーの性(?)か、はたまた新たな序列を再認識したいのか、
唐突に、マサミに対して居丈高に対応し始める少女。
「、、わかれば良いんだよ、、判れば、、、、お、、、お、おめぇ、、、は、私より、、し、、下なんだからよぉ、、」
「?!?!、、、、、???」
それはあまりにも突然な上下関係の宣告(?)であった、、、、、
おそらく、これまで自分が上位の者達から、まさに数え切れぬ程にそう言われ続けてきたのであろう。
そして、それが、初めて自分が、そう言える立場となって、思わず反射的にでてしまったらしい。
しかし、未だ自分の状況が正確に把握しかねている、当のマサミは、そんなあまりに不自然な宣告に戸惑うしかない。
だが、多分、その言われた方の戸惑いも、おそらく我が身で経験済みなのであろう、
すかさず、次の台詞が口から出てくるその少女。
「、、下なんだよ、、なんだよ、、判らねぇのかよ、、、、でかい図体しやがって、、、、」
以下、『イィ年をして、、』『使えねぇヤツ、、、』
おそらく、それらの台詞は、そのサコと名乗る少女自身、これまで上位者達から、まさに繰り返し、繰り返し、
言われ続けていたものなのであろう。
文字通り、後から後から、淀みなく出てくる罵詈雑言の数々。
それを聞かされ続けるマサミは、他に人がいない事もあり、思わず反論してしまったのである。
「、、、い、、いぃ加減にして、、、あ、、あなたにそんなに言われる筋合いはありませんっ!!」
そう、口にしてキッとばかりに少女を睨むマサミ。
すると、おそらくは打たれ弱いのであろうか、あっさりと怯んだ少女は、あっというまに涙目になってしまう。
だが、彼女が、床置きになっていた携帯電話を取ってこう言い始めてしまうと、また状況は変化する。
「、さ、、逆らったね、、あ、アタシに、、さ、逆らったら、、逆らったら、、き、、京子姐さんに、、言いつけてやるっ!!」
そんな事を聞かされてはマサミとしては、その矛先を納めるしかない。。
「!!!、ま、、待って、、待ってちょうだいっ!!、それは、それだけは、、、」
「、、じ、、じゃぁ、、、あ、、謝れ、、、い、今、アタシに逆らった事、謝るんだよっ!!」
また、たちまち逆転した立場に、先ほど反論された悔しさもあってか、逆ギレ気味に絶叫する少女。
「、、、、ご、、、ごめんなさい、、、、私も、、、言いすぎたわ、、、、、」
だが、そんなごく普通の謝罪の言葉も、彼女たちの世界には通用しないらしい。
「、、、ち、、違うだろっ、、謝るっていったら、、ど、、土下座だよ、土下座っ!!」
「!!!、、、なっ、、なんでっ!!、、、、くっ!!、、、、わ、、、判ったわ、、、」
まさかにも、そこまで増長するかと思わなかった少女の言葉に、さすがに抗おうとしたマサミであったが、
少女が、その自分の片手の携帯電話で、今にも京子へ電話をする素振りを見せられては反論するわけにもいかない。
内心の屈辱を懸命に押し殺し、粗末な異臭漂う部屋の床上で、年端もいかぬ見知らぬ少女に土下座するマサミ。
だが、無言で平伏する美貌の女性の背中を見下ろしていた少女は、マサミの屈辱を知ってか知らずか、それとは
反対に、その自身の内部に、妖しい嗜虐の悦びが沸き上がるのを抑える事が出来なかった。
それは、もちろん、これまで自分が数え切れぬ程、同じような目に合わされてきた反動もあったのであろう。
やはり、自分が言われてきた台詞をなぞるかの様にマサミに強制する少女。
「、、、だ、、黙ってたままじゃ、、わ、、判らないよ、、、ちゃんと、、謝罪の挨拶も、、するんだよ、、、」
「、、、、、、さ、、逆らって、、、も、、申し訳ございません、、、、、」
先ほどまでの、弱気な少女を見てしまったマサミは、一瞬悔しげに顔を歪めるが、幸い平伏したままでは気付かれぬ。
そんな、懸命に搾り出した謝罪の言葉を聞き、マサミには見えなかったが、その少女はなんと満面の笑みを浮かべていたのだ。
そして、なんと突然に電話を掛け始める少女。
「、、、、あっ、**かぃ、、、アタシ、サコだよ、、今からわたしんちに集合、皆も集めな、面白いもの見せてやるよ。」
言葉少なく、そう一気に喋って電話を切った少女。
一瞬、京子への告げ口かと青ざめたマサミであったが、どうやら違うらしい。
だが、思わず見上げたマサミと目が合ったその少女は、妖しい笑みを浮かべながら新たな指示を繰り出すのであった。
「へへへへへ、、、あんた、今日から、アタシの子分になったんだったら、アタシらのチームに紹介しないとね、、、、、
へへへへ、、、今、呼んだからね、、楽しみに待ってな、、、」
その少女の言葉に、なにか不吉な予感のするマサミ。
だが、どうせ、この少女同様、年端もいかぬ子供たちばかりであろう、、、、、、、
との甘すぎる予想を、この後、激しく後悔するマサミであったが、今はまだそんな将来など知るはずもない。
そして、マサミの謝罪で気を取り戻したのか、子分達の来る間、このアパートの説明を上機嫌でする少女。
しかし、その説明を聞いていくうちに、その上機嫌な少女とは反対に、暗澹たる気持ちとなっていくマサミ。
ここは、どうやらホームレスやらヤンキーやらの溜まり場同然の場所らしい。
他にも何人か住んでいる人はいるらしいのだが、それももはや生ける屍同然の老人達ばかり、、、、
だが、なによりショックを受けたのが、今どきトイレが共同、それも男女共用であるというのだ。
しかも、案内された個室は扉すら半壊しており、事実上の丸見え状態ではないか。
さすがに言葉を失ったマサミが、先ほどのことも踏まえ、多少の苦言を呈するのだが、それに応じた少女の言動は
マサミの予想を越えたものであった。
「はぁっ!?、なに、気取ってんのよ、、さっきも言ったろ、他のやつはイカれかかったジジイばっかりで
気にする事なんかないんだよ、、、こうすりゃいいのさっ!!」
とだけ言うと、なんとマサミの目の前で履いているミニスカをたくし上げ、ショーツを下ろし、あっというまに
和便器を跨ぎ、小用を済まし始める少女。
「、、、、!!!!、、、なっ!!!、、、、、、」
そのあまりにもあっさりと、恥知らずなマネを自分の目前で行う少女の行動に、一瞬あっけに取られるマサミは、
思わず反論しかけるが、先ほどの土下座の屈辱を思い出し、なんとかこの場は堪える事にする。
『、、、こ、、こんなトコで、、暮らすなんて、、冗談じゃないわ、、、なんとか、、、なんとか言いくるめて、、、』
自分が命じられた『修行』の惨めさにようやく気付き始めたマサミは、次第にその深刻さに顔面を青ざめさせずには
いられなかった。
そして、なんとかこの場から逃れようと、必死に考えをめぐらそうとすると、玄関先から少女を呼ぶ声が
聞こえてきたのはその時であった。
「サコ先輩ぁ〜〜〜ぃ、、」
「チィ〜〜〜〜っすぅ、、、」
その自分を呼ぶ声に更に上機嫌となった少女は、そそくさと小用をすませるとマサミを連れて玄関へと回る。
「おっ、やっと来たね、、、へへへへへ、、マサミさぁ〜〜〜ん、、、お披露目だよ、、、楽しみだねぇ、、、」
だが、そんな機嫌の良い少女と対比し、ゆっくりと新たな絶望感に囚われていくマサミであった。
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