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目覚めた真佐実は、自分の全身、まさに身体中、いや顔面すら覆い隠す包帯の中で目覚め、
未だ目覚めぬ悪夢の中にいると知り、一人、深い絶望の中へと気持ちが沈んでいく。
『全身美容整形』
あれは冗談や比喩などではなかったのだ。
もっとも、あの女性陣が自分や真由美たちにしてきたことを思えば、今更冗談で済ます筈も無い事位、
今の真佐実にとって、悲しいかな予想は出来た。
しかし、今、改めて全身を覆う包帯と不自然な倦怠感に包まれた我が身を思えば、やはりそのあまりに過酷な
状況に、絶望的にならざるを得ない真佐実である。
いったい、自分はこれからどうなってしまうのであろう、、、、、、
そして、自分が半生を掛けて築き上げてきた学園は、、、、、
いや、何よりも、真由美たち家族は、、、、、、
しかし、そんな感傷に浸る暇さえ、どうやら今の真佐実には許されぬ様であった。
ある程度の術後が経過した頃、その真佐実のいる広すぎる個室に様々な器具が持ち込まれ、すぐさま
いわゆるリハビリが開始されたのだ。
そして、それは運動機能だけではなく、エステも含み、超一流のスタッフの手にあるものと、気付かされたのは、
その後である。
術後の経過を考慮し、身体の汚れなど全身を濡れタオルで拭う事しか許されなかったその身体に、ようやく
全身入浴が許され、恥じ入る真佐実を他所に、エステシャン達の手でその全身を磨き上げられた真佐実は、
その自らの身体を見下ろし、まさに息を呑む思いであった。
そぅ、、、それはかつて、真佐実が体験してきた様々なエステなど、まさに子供の遊びにすら過ぎぬものと
思わざるを得ない程の効果を表していたのだ。
それはある意味、美容と治療、いや、医療との違いであろう。
そして、その文字通り、自らの輝く様な美肌に呆然とする真佐実を興味深気に見つめるエステスタッフの中、
どうやらチーフらしき女性が面白そうに声を掛ける。
「うふ、ビックリしたでしょ、最先端のお肌の再生治療の効果って訳ね、どぅ、お肌だけだったら、
十代の小娘にも負けない位のスッベスベのお肌でしょ。」
その声に振り返った真佐実は、ファさっとばかりに揺れる自らの髪の毛にも気付き更に驚愕に目を見張る。
そう、文字通り緑の黒髪であった真佐実の髪の毛が、今どきの若者風に明るいライトブラウンで
軽くウェーブしたロングヘアへと染め直されていたのである。
「どぅかしら、せっかくお肌が若返ったのだから、やっぱり髪の毛も揃えないとね、気に入った?」
そう、勝ち誇ったかの様に言うチーフに向け、必死に平静を装いながら声を掛ける真佐実。
「、、こ、、こんな、人に断りもなく、、、」
勝手に整形などされた、言語に絶する屈辱を、怒りをいまにも周囲に向けて爆発させようとした真佐実であったが、
その気配を察したのか、スタッフの一人がリモコンを操作した。
すると、その部屋の片隅にあったAVセットから大音響で流れ出したのは、、、
『あひぃ、こ、これ、よぉ、このお○んぽよぉ、マサミのお○ンコにぴったりぃ、、もぉ、サイコーよぉ、』
『お尻にもぉ、マサミのケツ○ンコにもぉ、早くぅ、早くお○んぽ、ハメてぇ、イれてぇ、、お願ぃよぉ、、』
そう、、それは以前にも使用された、真佐実と少年との淫行ビデオの再現であった。
それが、こんな、まさに見知らぬ人々にまで利用されてしまっていると気付き、思わず絶句してしまう真佐実であったが、
その隙間を狙うかの様に、チーフが訳知り顔で真佐実に告げる。
「うふふ、あんな若い男の子に夢中なんですものね、、全身整形したくなる気持ちも良く判るわぁっ。」
更にそれだけ言った後、真佐実の耳元に近付くと、他のスタッフに聞こえぬ様に囁いたチーフの台詞は、、
「あと、先生からの伝言よ、『あんまり騒ぐと人工授精するからね。』」
そう一言だけ述べ、再び離れるチーフ。
その悪魔の囁きに、かつての恐怖が蘇り文字通り絶句する真佐実を見下ろすチーフの眼はもはや、
かけらも笑ってなどいなかった。
そして、その恐怖に顔を引き攣らせる真佐実に向け、ダメ押しの様に告げるチーフ。
「それと、あと、お顔、気になるでしょうけどぉ、、ごめんなさいねぇ、、それだけはオーナーの意向で絶対ダメなのよ。
絶対教えられないし、見せられないのよぉ、、、、でも、安心して、
ウソや皮肉でなく、ほんと、美女、うぅん、可愛い系の美人になったのは間違いないから。」
その言葉で、スタッフ一同全てが今の自分の状況を把握済みであると真佐実も気付かざるを得ない。
それは、とりもなおさず、この人々に訴えても時間の無駄であり、無意味な事を意味していた。
なにより、あの淫行ビデオで欲情に狂う自分の姿まで見られた状態で、果たしてどれほどの説得力があるのだろう、、、
そして、先程の脅迫を思い出し、、自分の状況に完全に気付かされた真佐実は、ただ悲しげに目を伏せる事しか出来なかった。
だが、そんな真佐実を興味深く見つめるチーフは、それとは反対に瞳を輝かせながら真佐実に告げる。
「うふふ、そんなに悲しい顔しないで、、そんな暗い気持ちなんか、これからすっかり消えていくから、
なんせ、これからあなたにする仕上げのアンチエイジングは『ドモ○ルン○ンクル』とか『プラセン○』なんか
目じゃない位物凄いものよ。」
『本物の若返りって言うものを教えて上げるわ。』
そして、そのチーフの言葉が決して誇張ではない事を、それからのリハビリの日々で真佐実は思い知らされていく。
食事は言うに及ばず、入念な素肌へのケア、更には運動すら取り入れらたそれらのメニューの数々の実施を
否応無しに実施させらていく中、文字通り『若返り』をした錯覚すら覚え始めてしまう真佐実。
そして、それはいわゆるメンタル的なものも含むのであろうか。
ウォーキングや筋トレのさなか、スタッフが事あるごとに真佐実に強調するのが、
『生まれ変わった』『昔の真佐実は死んだ』との言葉であり、いつしかそれを真佐実本人にすら
言葉に出して言う事まで強制している。
そして、それを拒否した際の折檻もあり、いつしかその言葉を内面的なもの、比喩的な意味の言葉だと
自らを納得させ、いつしかそれを連呼し始めていた真佐実であった。
そして、大声で連呼などしながら強制される激しい運動。
当初はさすがに術後でもあり、また本来の50代の、当然の如く疲労し易く回復しにくい肉体であったのであるが、
生来が健康的であり、このような件に巻き込まれる以前から、地道に通っていたトレーニングやスイミングでの
鍛錬のせいもあったのであろうか、真佐実の肉体は次第に若かりし頃に近い程に軽やかな動きをこなせる様になっていった。
それは、運動を強制している周囲のスタッフ自身も驚く程であり、また、誰よりも真佐実自身も驚いていた。
そして、そんな若返った感のある肉体に精神も引き摺られたのであろうか。
その狭い閉鎖空間に閉じ込められたままでありながら、いつしか反撃の機会を虎視眈々と伺い始めていた真佐実であった。
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