3ー10
翌日、昨日と同様、いやそれ以上の親密さで朝食を取る真由美そして昭夫。
食卓に横並びで座り、恥ずかしげもなく、食べさせ合いなどするだけでなく、
「ねぇ、あなたぁ、お代わりは如何かしら?」
「うん、真由美の料理は美味しいから、朝からいくらでも食べられるよ。」
などの聞いている真佐実の方が赤面する様な会話さえする始末である。
そう、それは最早仮想の設定である、『2人は恋人』にしか見えぬ程の親密であり、
間近でそれを見させられている真由美の実の母の自分でさえ、思わず勘違いしかねぬものであった。
そんな実の母子の倒錯した恋人振りを、必死になって平静を装いながら無視する真佐実。
何といっても、相変わらず、この部屋は監視されているはずであり、、もしここで自分が何か彼女たちの意向に
逆らう様な事をすれば、いったいどの様な報復があるか、判ったものではないと知っていれば
迂闊な言動など出来る筈もない。
そんな、今の自分に出来る事は、ただ事態の展開をただ見つめ続けるだけであった。
そして、そんな無力感に苛まれる真佐実の心境を更に逆撫でする事態が発生してしまう。
朝から、実の母子の倒錯カップル振りを見せつけられ、激しく精神を消耗させながらも、
懸命に気持ちを奮い立たせて学園へと出勤した真佐実。
そして、新たな職員を2人加えた学園の日常が始まったわけなのだが、その2人が妙齢のカップルであり、
それも理事長公認(?)の恋人同士、更に2人とも絶世の美男美女の姉さん女房カップルとあっては
学園内それも女子高生達の注目を浴びぬ訳がない。
そんな、ほんの一日で学園の注目の的となってしまった美男美女のカップルに対し、以前の様に新聞部の生徒が
インタビューを行いたいと保護者である真佐実の元を訪れたのもまた当然であったかもしれない。
更に、その彼女の背後には年の差カップルに加え、なぜか校長までもが控えており、言わば内堀そして外堀まで
埋められた真佐実は最早、理事長室でそのインタビューを認めぬ訳にはいかなくなっていた。
そして、今、理事長室の応接セットに対面で座る美男美女カップルと新聞部の少女、校長。
執務机に座ったままの真佐実は、そんな光景を見させられ、表面的な微笑みを浮かべるのがやっとである。
そんな真佐実の心境も知らず、新聞部の少女が満面の笑を浮かべながらインタビューを開始しようとしていた。
「えぇー、まずは本当は挨拶とか、自己紹介とかから始めるのがルールなんですが、、、、、
すみません、まずは最初に確認させて下さい、、、、お2人のご関係は?」
その若者にありがちなあまりにも直接的な質問にも、ただ優しげな笑みを浮かべたカップルは、胸を張り堂々と
そして、キッパリと返答する。
「はぃ、、恋人同志{です、ですわ}。」
そう、息もピッタリ合った返答をする2人は、今やソファに寄り添うに様に座り、互いの腕を絡ませ合い、手のひらも
固く、いわゆる恋人握りの風に握り合っている。
「キャーッ!!、すみません、、あ、、あの、、出来れば、、色々聞かせて欲しいのですが、、、
た、、例えば、、馴れ初めとか、、、、」
リアル熱々カップル振りを目の前で見せられ、一気にヒートアップした少女は、手元のメモ帳にでも
書いてあるのか、それを見ながら様々な質問を2人にする。
そして、それにより真佐実にすら知らされていない2人の設定が、ようやく明らかになってくる。
・曰く、真由美が教育実習で昭夫と出会い、互いに一目惚れ。
・真由美の大学卒業、就職。昭夫の高校卒業就職と同時に結婚を2人で約束。
・だが、昭夫の家族、特になぜだか祖母と姉が大反対。
・だが、もはや離れる事など考えられない2人は真由美の親戚であり、成功者でもある真佐実を頼ってここに来た。
よくもここまでデタラメで適当な説明を思いつけるものだと、感心すらしてしまう内容が真由美たちの口を通して
語られる。
間違いなく、あの少女たちの入れ知恵ではあろうが、特に『祖母が大反対』の行など、まさに自分への当てつけ以外の
何ものでもないではないか。
しかし、そんなウソ話もどうやら、恋に恋する夢見る乙女には十分通用してしまったようである。
真由美たちの語りに一喜一憂したその少女は、『反対する祖母』に憤慨したものの、最後の真佐実を頼った。との
時点で、頼まれてもいないのに、その目の前の不憫なカップルにむけ太鼓判を押すのだった。
「なんか、分らず屋がいて大変みたいですけど、もぅ大丈夫ですよ。お2人とも。
ウチの理事長の真佐実先生はねぇ、そんな頭の固い大人なんかと全く違うんです。
このあいだもですねぇ、、、」
と、熱弁を振るうのであったが、当のその少女以外、その部屋にいる全ての人間が互いの正体を知っているのだから、
その熱弁もただ、困惑もしくは失笑するしかないと言うのが本音であった。
しかし、その少女の熱弁の後、最後にもう一つ質問ですとの問いを聞かされた際、一人真佐実はその顔が
引きってしまうのを抑えるがやっとであった。
「お2人が結ばれるの、私たちも応援します。それで、、ご結婚なさったらお子さんは何人欲しいですか?」
「それは勿論、愛する人との子供ですもの。沢山欲しいですわ。」
と、躊躇いのカケラすら見せずに、間髪入れず答える真由美の顔は、まさに女の悦び、幸せに輝いているのだった。
そして、それを聞かされてしまった真佐実が、当初の驚愕の後、その瞳にいつしか浮かべてしまったものは、、、、、
1.遂に本物の浅ましい獣へと堕ちてしまった実の娘家族を哀れむ悲しみの色。 last-3-11へ
2.女の悦びを叶えようとする実の娘を妬んでしまう浅ましい嫉妬の色。 last-4-01へ
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