2-08





ざわざわざわ、、、、、、、、

ある日の全校集会。
講堂に全校の生徒達は言うに及ばず教職員の全てが集められている。
そして、いつもは平穏なその場に似つかわしくないほどに、ざわついているその訳は、当然の如く、
『体調不良』を口実に、長らくその場を欠席していた理事長先生の久々の参加にあった。

そう、、、、久々に理事長先生が集会へ参加される、、、、、、そんな噂が流れると、やはりその理由は、
理事長先生直々に自らの口で行われる、現在の事情説明であろう。との憶測が流れたのは当然の結果と言えた。
そんな憶測の中、いつまでも喧噪が止まぬ講堂。

そして、そのざわめきが一瞬、静寂を向かえたのは、、、、、、
壇上の舞台袖から静々と中央に向かう一人の女性の姿が現れたからである。

真佐美であった、、、、、、、、、
しっかりと前方を見つめる目、足元を注意し、間違っても転ばぬ様に気を付けて歩を進めるその様は、まさに
『母』の姿に他ならない。

なによりも、横から見たその真佐美の姿態の有り様はもはや一目瞭然、『妊婦』姿以外の何物にも見えない。
元から豊かであった胸元は更にボリュームを増し、迫力すら感じさせる程の巨乳となっており、
なによりもその下腹部の膨らみ、、、、、スリムであった真佐美のウェストが見間違いの無い程に膨らみを
見せている、、いや、まさに見せつけているとでも言わんばかりの姿であり、歩き方ですらやや重心を後ろに
構える妊婦特有の歩き方でさえあったのだ。

これまで、正面や後ろ姿は見かけるものの、まじまじと真横からの姿、まさに妊婦以外の何者でも無いその姿を
見ることとなった生徒教職員たち一同はもはや、その歴然とした『事実』を目の当たりにし、ひたすら
真佐美自身の説明を固唾を飲んで待ち続けた。

そして、遂に一人壇上の中央に立つ真佐美。
決意に溢れていた瞳であっても、やはり先程、壇上に登った時から全身に刺さる様に感じる、
まさに数え切れぬ視線を前に、たじろがずにはいられない。

自分は理事長として、この場で大勢の視線に晒される事など、まさに無数に経験しているのはずなのだが、、、

『ほ、ほんとに、こ、この説明で、、大丈夫なの、、、、平気な、の、、、、』
『えぇ、、平気、私、既にこの方向で何人かにちょっと聞いてみてるわ、、大丈夫、皆、好意的だったから。』
ほんの先程、先日の『発表するべきカバーストーリー』なるものを校長の口から聞かされた際の、そんな
やりとりが一瞬、真佐美の脳裏をよぎって思い出される。

そして、それを思い出した真佐美が、つい縋る様な視線を舞台下の教職員たちの中にいる校長に向けたのだが、
『、、、、、、?、、??、、、えっ!?、、、、、』
そこから自分を見つめる校長と視線が交わった真佐美は、そこに先程、理事長室で自分を励ました際、自分を
見つめていた校長の瞳に浮かんでいた暖かい(?)色が全く失われていたの気付き、愕然とせざるをえなかった。

そう、、、今、自分を見つめる校長の瞳に浮かぶその感情、、、、それは紛れも無い、、嘲笑すら聞こえそうな
ほどの深く冷たい蔑みの色であったのだ、、、、、

、、、、、、しかし、今更、この状況ではもはやどうしようもない、、、、、、、

既に自分は壇上の中央に立ち、講堂中に集められている全校教職員たち及び生徒一同、まさに固唾を飲んで
真佐美の説明を待っているのだから、、、、、、

「、、、、み、、皆さん、、おはようございます、、、、、」
もはや観念するしか道の残されていない真佐美が遂に口を開いた、、、、、、、、

「本日、わざわざここに皆さんをお呼びしたのは、、、、ほ、他でもありません、、、、」
「今、色々な噂が、こ、校内を、さ、騒がしている様ですので、、、その事についての、お、お話です。」
「まだ、若い、皆さんには、、ち、ちょっと、シ、ショックかもしれませんが、、、、、」
「、、あ、、あの、、どうか、、、どうか、、落ち着いて聞いて下さい、、、、」

本当に、、本当に、、『あのストーリー』で、、良いのか?
自分は、、、ひょっとして、、何か、、トンでもない、、間違いを犯そうとしているのでは、、ないか?
最後の最後まで、、、真佐美の心を捕らえて離さなかったその疑問、、、、、しかし、、既に全て遅すぎた。

「み、皆さんが、、既に、お気付きの様に、、わ、私、、現在、、、に、、妊娠、、しております、、、、」

ザワッ!!
遂に理事長自らその『事実』を口にして、認めたことで、静まり返っていた講堂内が一気にざわついた。
うっそ、、、やっぱり、、ほんとかよ、、、えぇ、、、信じられない、、、、
あちこちでヒソヒソと話始める生徒や教職員、、、、、そして、、、、その空気はどう判断しても、真佐美に
好意的なものとは思えぬものとなっていく。

、、、、それは、、、当然であろう、、、、、

なんと言っても、真佐美は未亡人であり、、、、、独身なのだ、、、、、、
しかも、、、既に50代と言う年齢、、、、更に、教育者、それも代表、責任者の立場の理事長なのだ、、、、
それが、、、『妊娠』、、、、普通であれば、『祝福』すべき事柄であった筈なのに、今の真佐美の立場、
状況では、それはあまりに『不自然』過ぎる話ではないか、、、、、

そして、その立ち上り掛けた不穏な空気を察し、急いで言葉を続ける真佐美。
「あ、あの、落ち着いて、落ち着いて聞いて下さい、、これには、、これには事情があるのです、、」
「皆さんが、思っている様な、、、そ、その『変な』事では、、、ないんです、、、だから、聞いて下さい。」

事実は十分すぎる程に『変な事』の結果なのだが、まさかそれを言う訳にもいかない真佐美は、懸命に
なって、その『お話』を説明し始めた。

「あ、あの、わ、私には、子供が、む、娘が、いるんです、、そして、、そして、この、お腹にいるのは、、」
「、、そ、その、、、『娘夫婦の赤ちゃん』なんです、、、、、」
遂に口にしてしまったその『事実』、、、、

そう、、、校長達が用意した『カバーストーリー』、それは『娘の不妊故の代理母』であったのだ、、、、、

誰よりも大事な一人娘がどうしようもない事情の『不妊』故に苦しんでいる、、、、
『母』である、自分はどうしてもそれを見過ごす事が出来なかった、、、、、

それ故に、今だ倫理的に議論の最中ではあるものの、『代理母』として、、、、、、具体的には
『娘夫婦の受精卵を真佐美に移植、着床』させて、真佐美自身が『妊娠、出産』する方法を選択した。
と言う事なのである、、、、、、、

当初、それを聞かされた真佐美は、やはり古い世代のせいであろうか、その『話』に違和感を覚えない。
とは行かなかったのが事実である。

確かに、それと同様な実例はニュースで真佐美も耳にはした事がある。
しかし、それをまさか自らが行う事にされてしまうとは、、、、、

だが、、、聞かされてしまえば、確かにそれ以外、なにをどう繕えば真佐美の『懐妊』を説明出来るであろう。
この年齢での妊娠でさえ不自然極まりないのに加え、今の自分は独身なのだ。
それであるなら、『受精卵』を自分に、、それも、自然(?)な形で、、、、、、
それなら、、、『代理母』の形、、、、それも娘の代理母で、なら不自然ではない(?)、、、、、

そう、自分に言い聞かせ、むしろ、縋る様な思いでその『話』に飛び付いた、飛び付かざるを得なかった
真佐美。

『母』である自分が『娘』を大切に思うこの気持ち、、、、これはきっと他の人にも、、、生徒や教職員達にも
必ず伝わる筈だと、、、、必死に自分に言い聞かせ、自分を(無理やり)納得させた真佐美。

そして、それを生徒たち、更には教職員にも理解してもらうべく、懸命になって『娘を案じた事』
『自分の立場や皆さんの動揺も予想した事』『それでも、、、、、』と一同に説明を続ける真佐美。

だが、、、、

ざわざわざわざわ、、、、、
講堂内の不穏な空気、、、ざわついたヒソヒソ話は全く治まる気配は無い、、、、、
それどころか、、、、、

『!?えっ?、なに、意味判んない、、』『代理って、、、え、誰か、説明してよ、、』
『どう言うこと、、何、言ってるの?』
次第に明らかになっていく、不穏な、、、どころか、険悪な空気すら漂う講堂内、、、、、

そして、遂に決定的な発言が小さな声で、講堂内の片隅から聞こえてしまった、、、、、
『それって、、ひょっとして、、娘さんの『旦那さん』と、、『シちゃった』って、、事?』
、、、、、、、、勘違いにも程があるとはこの事だろう、、、、、、
よりにもよって『受精卵の移植』と、、、言わば『不倫の不貞行為』を勘違いするなど、、、、、

だが、、、、、
『、、うそ、、』『だって、今、娘さんの代わりって、、、』『えぇっ!?』
『だからそれって、自分の娘の旦那さんと、、『アレ』を、、』『!?!?』
もはや、流れは決まってしまった様であった、、、、、

そう、、、確かにこれは校長たちにとっても、ある意味、賭けではあったのだ。

隠し様の無い状態になっていく、真佐美の『妊婦腹』、、、、、、
そんな真佐美の事情、50代の未亡人で独り身での『妊娠』と言う現実をどう説明するか、、、、、
思案の揚げ句の『代理母』であったのだが、それがもし、すんなり『祝福』と共に全校に受け入れられれば、
それで良しとし、普通(?)にこのまま目出度く(?)臨月まで経過観察し、ただ出産してもらうだけ。

しかし、、、、もし、、、受け入れられなかったら、、、、、、その時は、、、、、、、、

そして、、、どうやら、その『その時』を向かえる事になるようであった、、、、、
しかも、たった一人の生徒の、それも壮絶(?)な『勘違い』によって、、、、、

『大切な一人娘の身を案じ、我が身も顧みずに挑んだ代理母』がどう勘違いすれば、
『娘の夫と寝たどころか、その子供を妊娠してしまった母親』になるのだ、、、、、
もちろん、『代理母』の意味するところを正確に把握している生徒も居るのは居た。
だが、、、、、、、、

「真佐美先生っ!!、、それって、、それって、酷いと思いますっ!!」

真佐美を、ある意味目標にしていた生徒達、それも多感な年頃、どちらかと言えば、理性よりも感情、
しかもそれに加えて、些か潔癖な程の倫理(?)すら求めてしまう少女たちにとり、その『懐妊』は
もはやどの様な形であろうと、『裏切り』にしか思えなかったのだ。

しかも、その歪んだ思い込みによって『不貞』とまで決めつけてかかる少女たちはもはやヒステリー同然と
なってしまった様である。

「娘さんの旦那さんと、、セ、セックスしたってことですか?」
「えぇーっ!?、う、ウッソォッ!!」「だって、娘さんの代わりって、、そう言う事でしょぉ、」
「それって、、それって、、、、えぇっ!?」

もちろん、生徒たちの中には『代理母』の意味を正確に知っている者もいるにはいたのであるが、しかし、
今更、始まってしまったこの集団ヒステリーの様な状況の中、いったい何を言えるであろうか、、、、、

そして、、、、もはや、壇上で立ち尽くすしか無い真佐美は、文字どおり、呆然、いや、愕然としてた、、、

もちろん、『祝福』されるとまでは思ってはいなかった、、、、、
だが、、、いったい、、いったい、、なんで、、こうなってしまったのだ、、、、

『、、ち、ちがう、、、ちがうわ、、』
「、、お、落ち着いて、皆さん、、どうか、どうか、、落ち着いて、ちがう、、、、違うんです、、、、、」

ありとあらゆる場面、状況で追い詰められた者が必ず口にしたであろう『落ち着いて』と言う、その台詞、、、
だが、これほどに無力な台詞もそうは無いであろう。

もはや収拾のつかぬ程に混乱してしまった講堂内の有り様に、真佐美自身、パニックに陥り賭け、まさに
縋る様な思いで、教職員たちの中に居る校長を見つめる真佐美。

すると、一際大きなため息をついた校長は、その周囲の喧噪を全く無視し、つかつかと壇上の真佐美に近付き、
そしていつの間に準備したのか、手元のマイクのスイッチを入れると、割れんばかりの大音響で講堂内を
一括してしまったのだ。

「皆さん、皆さんは、それでも**学園の生徒なのですかっ!!落ち着きなさいっ!!」
そのあまりの大音響に、一瞬怯かの如く講堂内に静寂が訪れた。
そして、その間隙を縫うかの如く、傍らで呆然と立ちすくむ真佐美に声を掛ける校長。

「理事長先生、お話、伺わせて戴きました、、、、正直に申し上げまして、、私、がっかりしておりますわ。」
「?、、、、?!、、、、!!、、、な、、、え、、、」
『何を、、、何を言っているの、、、、だって、、、、』

『がっかり』もなにも、自分が言い出した事ではないか、そう言えと校長自身が先程告げたのではないか、、、
その校長の態度のあまりの豹変振りに、もはや呆然と、愕然とせざるをえない真佐美。

しかし、そんな真佐美を無視し、正面を向き直した校長は、再びでマイクで声を張り上げて周囲に告げる。
「皆さん、これから、私が理事長先生とお話させて戴きます。そして、各担任の先生方を通じて改めてこの件は
 説明しますので、とりあえずこの場は解散させて戴きます。」
それだけ言うと、まさに拉致するかの如く、真佐美の両肩を抑えながら舞台袖に下がってしまう校長。

そして、一瞬、あっけのとられたのも束の間、残された生徒達はまさに蜂の巣でも突いたかの様な大騒ぎと
なってしまうのだが、あまりの状況の急変に、まさになす術も無い真佐美は、ただその大荒れとなってしまった
全校集会の場である講堂から、引きずられるかの様に後にするしかなかったのである。



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