新たな生贄03-02



それから、金曜日までの数日間、まさに生きた心地のしない日々を過ごす事になってしまった真佐美である。

あの面談室での『田中君』との相談以降、真佐美ファンの少女たちも、友情を鑑み(?)、理事長室での歓談は
とりあえず中断、なにより、真佐美もあんな事があった以上、とても『田中』や『則子』に会える筈も無い。

だが、相手もどうやらそう思っているらしく、さして広くもない学園内、幸い、あまり会わずにすんでいた。

そして、あっと言う間に日々は過ぎ、運命の金曜日となってしまう。
なんとか日中、業務をこなし、そそくさと帰宅する真佐美。

だが、せっかくの休日前夜の夜、家に閉じこもり、いてもたってもいられぬ真佐美である。
『来る訳、ないわよね、、たったあれだけの、文面だけで、、いたずらメールだと思ってるかも、、、』
そう必死に自分に言い聞かせている真佐美の耳に、突然鳴り響くチャイムの音。

ピンポォーーンッ!!
「!?、ヒッ、だ、だれ、、、」
思わず飛び上がらんばかりに驚いた真佐美は、恐る恐るインターフォンのモニターを見て、絶句してしまう、、

なんとモニターの向こうには、あの少女たちがニコニコしながら手を振っているではないか。
『ヤッホォーッ、先生、開けてぇーっ!!』
『、、、い、、いつの間に、、いったい、いつの間に、、、』
いったい、いつ調べたのか、あの2人、とうとう自分の自宅にすら来てしまったのだ。

ぼうぜん、いや、、愕然とする真佐美を他所に、中々反応の無いのにイラだったのか、遂にはドンドンと
ドアを叩く2人。

「、、、!?、、ち、、ちょっと、、やめて、、、やめてよっ!!」
このままで近所にまで知られてしまう、、、、
それを恐れる真佐美は慌てて玄関に向かうと、そそくさとドアを開き、さっさと2人を中に入れドアを閉める。

「、、、な、、、何よ、、何の用?、、わざわざこんなトコろまで、、来るなんて、、、」
必死に虚勢を張る真佐美だが、当の2人はそんなことなど気にも掛けず単刀直入に切り出す。

「えぇーっ、、ひょっとして真佐美先生、約束、ブッチしないかなぁぁ、、、って心配になってぇ、、」
「でもぉ、大丈夫ですよねぇ、、卑しくとも教育者たるもの、生徒との間の約束を、無視なんてぇ、、」
『、、クッ、、、ひ、卑怯よ、、、、』
悔しげに少女たちを睨む真佐美だが、気休めの様に告げる和美の言葉に頷かざるをえなくなっていく。

「うふ、だからぁ、大丈夫ですよぉ、あんな変なメールだけで来る筈ありませんってばぁ、、」
「だから、確認するだけ、ちょっと見てて来なければ帰りましょ、それでイィですから、ね、先生。」

そして、念を押すかの様に、改めて確認する真佐美であった。
「、、、、わ、、判った、わ、、、見るだけ、、ちょっと見るだけ、少しでも遅れたりしたら、、、」
「えぇ、勿論ですぅ、その時は帰りましょ。」
そこまで言われては、基本、自分が破滅するネタを抑えられている自分に、選択の余地は無い。

真佐美がノロノロと外出の準備を整え、手配したタクシーで学園へ向かう一行であった。

そして、やや学園から離れた所で下車すると、そちらへ向かう3人。
そして、真佐美の持っている、学園のマスターキーで裏門を解錠し、校内に入る
そのまま、校舎の陰に隠れようとする真佐美であったが、それを制止、そそくさと校舎へ向かう少女たち。

「ち、ちょっと、そっちは、、」
そんな所に隠れても、肝心の用務員室は見えないではないか、、、、
だが、そんな真佐美の心配を他所にずんずん2人は進み、、、、
「いぃから、いぃから、、あっ、ちょっと、ここ開けて真佐美先生。」
「え、、えぇっ!?、、な、なんで、、いったぃ、、」

少女たちの行動を、当然の様に訝しむ真佐美だが、突然に口調を変え、急がせ始めた2人に煽られ、思わず
その通用口を解錠し、校舎内へと入ってしまう一行。
「いぃから、ほら、急がないと、、『田中君』来ちゃって、お友達の正体、バレちゃいますよぉっ!!」

そして、校舎内に入った和美達は、そそくさと手近な教室に入り、勝手にいすに座るとなにやら持ち込んだ
カバンの中を探し始める。

「えぇーーっとぉ、、、どれだっけかなぁ、、、、あっ、これ、これ、、、」
と言いながら由佳が取り出したのは、小さな液晶TVであった。
そして、そのスイッチを入れ、チューニングして、、、、、
「よし、バッチリ、、ね、これ、見てれば、ここに座って監視できるでしょ。」

なんど、その画面にはいったいどうやったのか、不鮮明ながら学園の正門脇、通用門が写っているではないか。
「、、?、、!?、、!!!、、な、、い、ったぃ、、どうやって、、、」
「あら、簡単ですよ、ちょっとした送信機付きのピンホールカメラ、置いとくだけ、そんな遠くは無理だけど、
 この距離なら、バッチリね。」

そんなハイテク(?)機器すら使いこなす少女たちに、あぜんとする真佐美であったが、傍らの和美が
携帯の時計で確認し、一行に注意を促す。
「ねぇ、あと、5分よ、、そろそろ、注目、注目ぅ、、、、」
「、、、こ、来ないわよ、、、来るわけないわ、、、」
そう強がりながらも、内心、祈るが如しの真佐美の心境はいかに、、、、、

そんな、今や、誰よりも固唾を飲んでモニタを見つめる真佐美を他所に妖しい笑みを交わし合う2人。

だが、、、、、待つ時間はそれほどは必要なかった、、、、、
「、、あっ、見て、ドア開くわよっ!!」
「!?、、、、!!!!、う、う、そ、よ、、うそだわっ!!、、ウソよぉっ!!」
もはや、周囲の状況も鑑みず、立ち上がり絶叫してしまう真佐美。

だが、その叫びを否定するかの様に、ゆっくりと通用門のドアが開き始める。
そして、そこから現れる小さな人影、、、、、、、
「、、、ち、違う、わ、、そ、そぅ、よ、ド、泥棒よ、、泥棒だわ、、絶対にウチの生徒じゃないわっ!!」

事実の前に崩れ去る理想。
現実逃避も極まり、言うに事欠いて『泥棒』、、、、
我れを忘れて、必死に否定するその様は滑稽を通り越し、もはや痛々しいほどである。
そんな真佐美を哀れみ、思わず感想を漏らす由佳。

「あぁ、長年に渡る学園の名誉と実績そして伝統、少年の性欲と煩悩の前に瓦解す、、無念なり、なんてね。」
「、、ふ、ふざけないでっ!!」
茶化した言葉のあまりの嘲笑振りに、思わず激高する真佐美であったが、、、、、

「あぁっ、もぅ、いつまでもうるさい、ほら、『田中君』がお待ちよ、、エッチな真佐美ちゃん、、、、」
「、、、ち、ちが」
バチィッ!!
いつの間にか真佐美の背後に忍び寄った和美が、真佐美の首筋にいきなりあてたスタンガンにより、叫びの
途中で崩れる様に倒れ込む真佐美。

「ふん、いつまでも諦めが悪い、、『泥棒よっ』って、、ギャグにしたって最悪よね、、、」
「うふ、でも、これで何もかも、決定しちゃうんだもの、そりゃ必死になるわよ。」
冷たく見下ろし、嘲笑する和美と、やや同情的な由佳。

だが、時計に気付いた二人は、大慌ててで準備を始める。
「いっけなぃ、もぅこんな時間、、ほら、急いで急いで、、」
「あっ、ホントだ、もぅ、いつまでもグズグズしてるから、、」
先程までの同情など、あっと言う間に地平の果てに消えている由佳と一緒に、真佐美を担ぎ出す和美。

その姿は、真っ暗の校舎の闇の中、静かに消えて行った、、、、











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