三章 許されぬ(満ち足りた)日々 02


景子が出掛け、静まり返る家の中。
その沈黙に脅える佳代は、内心の不安を押し殺し、無理やり明るく、自分の傍らで同じ様に景子を見送った
かおるに声を掛けた。

「じ、じゃぁ、私、洗い物とか、洗濯があるから、、、、かおるさんは、、リビングで休んでて下さいな。」
そう言いながら、かおるの手を取って、居間に戻り座らせた佳代は、それだけ言うとまさに逃げるかの様に、
そこから去ってしまう。

しかし、どう色々としてみても、2〜3人分の家事など午前中だけあれば余裕で終わってしまう。
その間、まさにポツンとリビングに座るかおるであったが、所在なげに見えもしないのにただ、TVをつけ、
ただ、その奥様向けのお茶の間番組を聞いているだけであった。

ほんの1〜2時間で早々とそんな退屈な時間に飽きてしまったかおるが、新妻に声を掛けるのはやはり、
当然と言えば、当然であったのかもしれない。

それでも、『今、洗い物が、、』『ごめんなさい、御洗濯、、』『お掃除、、』『そろそろ、お昼の準備、』と
その度にごまかして来た佳代であるが、それもあっと言う間に限界が来てしまう。

昼食の準備をしているキッチンの佳代は、突然に背後から声を掛けられ、思わず飛び上がらんばかりに驚いて
しまった。

「ねぇ、景子先生ってば、、、、、あ、、の、、、ね、、、、、そ、の、、」
強い口調と裏腹に、言いにくそうなかおるの仕草で、イヤな予感を覚え、ゆっくりと背後を振り返る佳代。
「、、、、あ、、ぁ、、、、、な、、なんで、、かおる、、、だめ、、、絶対に、、ダメなのよ、、、、」
力無くそう呟いた佳代の言葉は、補聴器越しにしか聞き取れぬ、今のかおるの耳には全く届かなかった様で
あったが、息子を見つめる佳代の心は、深い絶望へと沈んでいく様であった。

今、キッチンの入り口に立つかおるの衣装はゆったりとした部屋着のままなのだが、なんとその股間が、
恥ずかしげもなく、見事な程にモッコリと盛り上がっているではないか。

そう、、、かおるは今、家にいるのは新妻同然の景子だけだと信じ込んでいる。
そして、佳代はパートに、それもわざわざ、夫婦水入らずにさせる為に外出しているのだとも信じているのだ。

そこまで母親が気を使ってくれている(?)のだから、これこそ『据え膳食わねば恥』と言う状況ではないか。

しかし、そんなノー天気なかおるに比べ、身代わりとさせられている、かおるの実の母親の佳代は、まさに
煉獄の境地にあるのは言う間でもないことであった。
自分は、、、自分は景子ではない、、、あなたの母親の佳代なのだ、、、、そう言って、全て明らかにして、
こんな、、、、、こんな猿芝居、即刻、止めさせてしまおう。

そうでもしなければ、、、、、、また、、、また、、、許されざる『罪』を、、、忌まわしい関係に
堕ちてしまう、、、、、、

前回は、まだ、自分は薬を使われ、身動きも取れず、かおるもまた勘違いでしでかしてしまった事、、、
しかし、、、今、、、この状況で、、、『そんな事』になったら、、、、サれてしまったら、、、、、、

まさに、、、まさに、、取り返しがつかないではないか、、、、、、、、
もし、そんな事になったら、、、、、いったい、、、いったいどう弁解出来るというのだ、、、、、
特に、新妻同様で幸福の絶頂にいた筈の景子に、いったいどう説明出来るというのだ、、、、

しかし、もし、バラしたら、、、あの日、許されぬ関係を既に、母親と持ったことまでもが、かおるに
バレてしまったら、、、、、、、、
自分たち母子、そして景子を含む、この家の関係は、いったいどうなってしまうのだろう、、、、、

そうなったら、、、、まさに全てを失うかもしれない、、、、、、それであれば、、、この猿芝居を続けて、
なんとか、時を稼いでいれば、、ひょっとしたら、この先、何か関係改善の糸口が見つかるかもしれぬでは
ないか、、、、、

客観的に見れば、それは単なる問題の先送りに過ぎず、往々にして最悪の結果を招くパターンなのであるが、
この期に及んでさえも、主体的に物事を決められぬ哀れな佳代は、ひたすら躊躇する事しか出来なかった。

だが、そんな究極の葛藤の中にいる佳代だが、、、、そう、それはその本心の深い所、まさに『女』としての
本能の様なものが、人知れず叫び声を上げていたからにほかならなかった。

あの、燃える様な、、、いや、、、まさに見も心も蕩けてしまいそうな官能的過ぎる交わりの一時、、、
許されぬと知っているその関係がもたらす、背徳的な思いがその肉の悦びを一層激しく燃やしてしまった
あの禁断の性交、、、、、、、

血の繋がった実の母と子の交わりが、あの様に甘美なものであったと知ってしまった佳代の心理は、それを全て
失うかもしれない、『全てを明らか』にする事にどうしても抗ってしまうのであった。

『あぁ、、いったい、、いったいどうすれば、、、、、、』

そんな、まさに究極の逡巡とでも言った真ん中で葛藤を続ける佳代であったが、そんな哀しい母の気持ちも
知らずに、中々返事さえくれぬ『景子』に遂には不自由な目でありながらキッチンへと入ってしまうかおる。

もちろん、いかに住み慣れたわが家とはいえ、俄か盲目の哀しさ、あっと言う間にいすに躓き転びそうに
なってしまうのだが、それに気付いた佳代は、やはり母の本能であろうか、迷うこと無く素早いダッシュ、
難なくかおるを支えてしまう。

そして、、、、、それが、終わりの始まりであった、、、、、、
「うふふ、景子せんせい、捕まえた、、、、、、じゃぁ、こっちで座りましょ、、、、」
支えた筈の自分が、いつの間にか、ガッチリと肩を捕まれ、そるそろとかおるに引かれて、再びリビングへと
運ばれて行くのを、まさに金縛りにでもあったかの様に、抗いもせず、されるがままでいる佳代。

そう、、、、、ほっそりとしたかおるの指先に肩口を捕まれ、ぴったりと寄り添ったその華奢な身体から匂う、
体臭に包まれた瞬間、、、、、、、もはや、昨日の濃厚な交わりを思い出すのは、まさに必然であったのだ。

『あぁぁ、、い、イケない、、、だめよ、、かおる、、ママなの、よ、、あなたの本当のママなの、、、、』
そう意識の深い所で理性が叫んでいたような、、、、、、、、いないような、、、、、

だが、そうしてかおるに誘導されるが侭にソファへと座らされた佳代に、もはや理性、どころか、知性、いや、
自分の意識すら、無いも同然であった、、、、、、、

やがて、閑静な住宅街、それも平日の真っ昼間に、全くもって相応しくない、どころか実に怪しからん
妖しい声がリビングから漏れ出してしまった事は、言う間でも無い事であった、、、、、、、




03-01へ

03-03へ

オリジナルの世界Topへ

Topへ