三章 許されぬ(満ち足りた)日々 01

かおるの退院した翌日、目眩く様な官能の交わりを久々に新婚の若夫婦が味わった晩の次の日の食卓で、
「ね、ねぇ、かおるさん、、ママ、、パートにでも出ようかと思うの。」
「えぇっ!?、、、なんで、、、だって、、前に、ウチは誰も別に働かなくても平気だって、、、」
「うぅん、それはそうよ、、でも、、、いやぁねぇ、ママにそんな事まで言わせないで、、だって、あなた達
 一応、新婚さんみたいなものでしょ、なのに、ママみたいなオバさんが、一日中一緒にいたら、ねぇ、、」

そんな含みのある言い方をされれば、いかに鈍感であろうがかおるとて気付かぬ筈もない。
新婚夫婦にありがちであり、ある意味当然である『アレ』に思い当たり、思わずその母譲りの端正な顔を
羞恥の為か、真っ赤に染めてしまうかおる。

「そ、、そんな、ボク達、、、で、も、、うん、、、あ、景子先生は、、知ってるの?パートの事。」
「えぇ、勿論、そこは『女同士』ちゃんと話済みよ、、、じゃぁ、かおるもそれで良いわね。」
そのあまりに突然の佳代のパート話であるが、訝しみながらも、心のどこかでそれを素直に受け入れてしまう
かおる。

それは、それもある意味、納得の行くことであったからなのだ。
不慮の事故により、一時的な失明と失聴により大学も休学し、自宅で療養する事となったかおるなのだが、、、
困ったのはとにかく、、、ヒマなのだ、、、、目と耳は不自由であるからヒマ潰しの読書どころかTVも、
いや音楽すら聞けない。

無理に聞いても事故の後遺症が残り、聞いた音は、まるで何かに反響して、こもった様な音にしか聞こえぬの
ものでは、とても音楽を楽しむどころではない。

しかし、それ以外は完全な健康体であるならば、、、、、、、、まして同じ家の中、新婚同然の新妻が
いるのであれば、、、、、、、
『アレ』に思い至るのは、まぁ時間の問題であったのであろう。

そして、勿論、そんなシナリオを書いたのは、あのアラフォーコンビであり、かおるのケガに負い目を持つ
景子、そして近親相姦の生映像を取られている佳代に、選択の余地などカケラもありはしないかった。

つまり、この奇妙な義母娘交換劇のまま、哀れにも本来であれば新妻同然に過ごせるはずでありながら、
昼間は春川家から追い出される事になってしまう事になった景子であったのだ。

そして、そのパート初日。
いつもの様に、仲良く(?)三人で朝食を済ませた後、どこかぎこちない風な口調で、身支度を整え、かおるに
声を掛けて出掛けて行くのは、だれあろう景子に他ならなかった。
「、、、そ、それじゃぁ、、ママ、行ってくるわね、、かおるさん、、け、景子さんの言うこと、良く聞いて、
 ちゃんと、安静にしているのですよ。」

命令された通り、あくまでも佳代の立場でその演技を続け、まさに泣く泣く外出させられる景子。

だが、目も見えず、耳さえ強度の耳鳴りで補聴器越しでしか聞き取れぬかおるにとって、それが母親の佳代で
あると頭から信じ込んでいて、まさに露ほども疑ってはいないのであるが、今、外出していく人、それは
紛れも無く、自分の新妻の景子、その人なのであった。

そして、本来景子がいる場所に立つのは、かおるの実の母親の佳代である。

弱みを握られ、抗う術を奪われているのは、景子だけではない。
この猿芝居にも似た、こっけいな母義娘交換劇ではあるものの、逆らえば、たちどころに自分たち母子が
獣へと堕ちてしまった事が、世間に知られてしまうのだ。

そして、その決定的な弱みを握られた2人は、泣く泣く、景子は外出、そして許されぬ行為に脅える佳代は
自宅の残る事となってしまった。


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