01-01



「お早うございまぁす。」
久々のオフを息子と楽しんだ春美は心身共にリフレッシュされ、新たな気力も充実させ今朝もまた所属事務所へ
赴いた。
「あっ、春美さん、、、待ってたのよ、、、ちょっと、、良いかしら、、、」
いつも快活な社長に似合わぬ曇り顔で、春美を待ち兼ねていたのか、事務所の奥から社長が出てくると、
急いで奥の会議室へと招いていく。

「あっ、、は、ぃ、、なんでしょう、、、」
『、、、、なにかしら、、、新曲のキャンペーン、、それとも、、、』
何かいつもと違う雰囲気を感じ、訝しげに社長に続いて会議室へと入って行った春美であるが、そこで、
聞かされたのは、ある意味、驚天動地の内容であったのだ。

「春美さん、、、驚かないで聞いてね、、、○本先生、、しっているでしょ、、あの『○の流れの、、』の、」
「えぇっ、それは、勿論、、、、」
突然に社長からその名を聞かされたのは、だれあろう、かつて春美が憧れた演歌の巨星に曲を提供し、
今、現在、美少女グループのプロデュースを全国どころか世界展開する形でと狙っている男。
同じ芸能界にいるとは言え、春美からすればまさに雲の上の存在である男の名前であった。

まさか、ここでその名前が聞かされるとは思いもしなかった春美が驚く間も無く、更に社長が言うには、、
「実は、あの先生、久々に演歌でのヒットを狙っているらしいのよ、、、、、」
『えっ?、、、、えぇぇっっっ!?!?』
驚きのあまりに声も出ない春美、、、、、そんな話を社長が口にする、と言う事は、、まさか、、、まさか、、

あまりの事態の展開に、驚きのあまり心臓が早鐘の如く鳴り出す春美。
だが、次の社長の言葉はある意味、極めて現実的な者であったのは言うまでもない。
「それで、色々な事務所に声を掛けてるの、、それも若手の女性演歌歌手に、、、、」
そう、、、いくらなんでも、いきなりの超大物からの名指しでの御指名など、まさに漫画かドラマでもない
限り、絶対にあり得るはずがない。

おそらく、社長の言う通り、それこそ芸能界中の事務所の、まさに星の数程いるであろう、春美と同じ
立ち位置にいる女性演歌歌手に声を掛けている最中なのであろう。
つまり、自分はその数え切れぬ位の対象者の中のたった一人でしかないのだ。

だが、、、、これは、、、チャンスには違いないではないか、、、、たとえほんの僅かの可能性なのだが、
それでも、、、もし、、上手くいけば、、、あのかつて春美が仰ぎ見た演歌の巨星が歌った、あの永遠の
ヒットソングを作った、あの人から歌をもらえるかもしれないのだ、、、、

だが、、、春美とて、だてに15年もこの世界に居る訳ではない、、、、、、、
なによりも、社長の憂い顔がそれを物語っているではないか、、、、、

そして、その春美の問いかけ顔に、思わず目を臥せながら、言葉を濁してしまう社長。
「、、、、えぇ、、うちみたいな弱小プロ、ロクにコネも無い事務所、本来なら正直、全く無関係よ、、、」
「、、、、それでも、、、先生に紹介してくれるって言う人から、ある条件を持ちかけられてね、、、、」

と、そこまで聞かされれば、そこから先は聞かずとも容易に想像は出来る、、、、、
『、、、、や、やっぱり、、、結局、、、そこなのね、、、、、、』
そう、、、、この業界で階段を昇るのに、およそ『女』と『金』に無関係で居られる等、まずはありえない。
おそらく、今回も、莫大な仲介料、もしくは春美の身体が目当てなのであろう。

だが、、、こんな弱小プロにそんな莫大な『金』があるはずも無い、、、そして、、、いかに栄光が待って
いようとも、母でもある春美が『女』を売り物に出来るはずがない、、、、
そう、、結局のところ、この2点の譲歩が出来ぬから、未だ春美は売れない演歌歌手であり、事務所もまた
いつまでたっても弱小プロダクションなのである、、、、、、

、、、、、、、だが、、、、、、ふと、先程までの興奮もやや落ち着いた春美は、あることに気付く。
そんな事、自分よりも社長の方が良く、知っているではないか。
これまでも、あった似たような話、全て固辞してきたはずなのに、、、、、、、

すると、そんな春美の疑問がまるで聞こえたかの様に、憂い顔を一層に濃くしながら社長が重い口を開いた。
「えぇ、、お金でも、、アレでも無いわ、、、、その、、、、ちょっとその仲介の人、特殊な趣味なの、、、」
そんな意味深な言い方をされては、春美とて気にならぬはずも無い。
なにより、それによっては、ひょっとしたらトンでもないチャンスが舞い込むかもしれぬのだから。

「、、、、社長、なんですか、、条件って、、、私、、、たいていの事なら、、我慢出来ますよ、、、」
どうやら『身体』でも『金』でもないと知った春美が、勢いついて社長に尋ねるのだが、ようやくその
重い口を開いた社長の言葉、あまりにも意外なものであった。

「そ、の、、あなたと、、一日デートさせて欲しいって言ってるのよ、、その人、、、、」
「、、、、、?、、、、??、、???、、、、え、、、、デート?って、、、えっ!?」
突然聞かされた、かなり意外なその単語にさすがに戸惑いを隠せぬ春美。
それは、そうであろう、、、かの大御所への紹介に、いくら金がかかるのか、はたまた身体を要求されるのかと
身構えれば、『デート』とは、、、、、

だが、そんな『デート』と言いながら、その実際には、、、と思いつき、身構える春美であったが、
やや苦笑しながらも、芝居じみた仕草で大きく手を振る社長である。
「あぁ、ないない、大丈夫そこだけは間違いないわ、、だって、その相手、、、その、、ホ、、ホモだから。」
「私の業界の古い知り合いなの、、昔っから知ってるし、女性関係が皆無なのは私が保証するわ。」
「でも、だからって、なんで女性のあなたと『デート』かって言うと、ちょっと複雑なのよ、、、、」

曰く、
・春美のデビュー当時からの熱烈なファンであり、
・かつてのデビュー時の春美ともう一度会いたい、そしてデートがしたい。

どうやら、そのころはその仲介者もソの気は無かった様であり、そんな頃の春美と健全(?)な関係を
保てれば、ひょっとして現在の自分にも良い影響が与えられるのではないか、、、、、
だ、そうなのだ、、、、、、

どうにも、良く判らぬ理屈ではあるのだが、自分をここまで育てて暮れた大恩ある社長が言う事であるし、
なによりも、その程度の事で、超大物プロデューサーとコネが出来るのであれば、何を躊躇う事があろう。
「あ、、の、、、ホントに、あれ、、エッチは無しなんですよねぇ、、、、、」
「えぇ、それは間違いないわ、絶対、、、、、、でも、、、止めとく、、やっぱり、、、、、」
「いえ、、、、、私、、、、やります、、、、、、、ぜひ、、、ぜひ、やらせて下さい。」

栄光の懸け橋に指が届くかもしれぬとの期待に胸膨らませる春美は、気付かなかった。
その時、社長の瞳が妖しく輝き、口元に不気味な笑みが浮かびかけたのを、、、、、
そう、、、、、この瞬間、、、、春美の運命は決まってしまったのであった、、、、、

そして、少しずつ本性を露わにしていく社長。
「でも、、、デビュー当時って、具体的には、ようするにあの頃の格好で来て欲しいって言う事なのよ、、」
「はぃ、勿論です、、、、、、」
『、、、って、、、、えっと、、、、、えぇっ!?』
仰天する春美をよそに、どこか楽しげな社長、、、、、春美を捉える罠は次第に閉じられつつあった、、、



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