演(艶)歌の花(電車)道 

登場人物

美園春美 30才 142cm
     小柄ながら芸歴15年の演歌歌手。シングルマザー
美園 薫 11才 144cm
     美園の一人息子。(いつもの様に(^^;)美少女顔ながら大人顔負けの巨根の持ち主) 

藤○紀子 女社長 38才
     春美をデビューから見ていた恩人。

00-00 芸能編

『に〜〜ほぉ〜〜ん〜〜かぁ〜〜ぃ〜〜、、、、、、、』
とある地方都市のデパートの催事場に響く歌声。
『いぃぞぉーーはるみちゃぁーーんっ!!』
ステージではサビをきかせながら持ち歌を歌い終えた演歌歌手が一人、深々とお辞儀をしていて、そこへ固定客、
というか、熱心なその歌手のファンであろうか、年配の人々が、我が年も顧みず、夢中になって声援を送っている。

『ありがとうございます、ありがとうございます。尚、引き続き、この場での握手会及び記念撮影に移らせて
 戴きます、尚、大変に申し訳ありませんが、こちらはCD、カセットをご購入戴いた方のみの特典と
 なりますので、、、、、』

デパートのスタッフであろうか、慣れた感じでテキパキとその場を頻っていく周囲の係員達。
どこの催事場でもよく見られる、演歌歌手の(地味な)キャンペーンの風景がそこに広げられていた。

昭和、どころか21世紀ですら既にそれなりの年月が経過しているのも拘わらず、なぜかこの手の演歌歌手の
キャンペーンだけは、数十年の昔から何も変わっていない。  
  (もっとも、そんな歌手を撮影する道具こそ、デジカメやら携帯やらと変わりはしたようであるが、、、)

そして、その演歌歌手を応援する人々の声援も、思えば相変わらずである。
「春美ちゃん、今回も良い歌よ、私、今度も一生懸命応援するから、、、」
「今年こそ、紅白歌合戦、間違いないわよ、、、」
「春美ちゃん、見てるとなんかホッとするのよ、、私達、、、、」

握手会に訪れてくれる人々のありがたい声援、応援。
そんな応援してくれている初老のおバ様達の応援に、笑顔で答えるものの、後半のせりふに至り、
やや顔を引きつらせてしまう春美。

「いつも、本当にありがとうございます。」
「そぉんなぁ、、私なんかまだまだでぇ、、、」
しかし、多少顔を引きつらせながらも、笑顔で答え、テキパキとこなしていく春美。

やがて、キャンペーンも終了、主催者への挨拶も全て滞り無くこなした春美は、一人、デパートを後にする。
ちなみに、今時、演歌歌手で自分以外スタッフがつくなど、いわゆる大物歌手以外まずはありえないので
あるからして、この様な一人での移動も春美はもはや、慣れたものであった。

そう、、春美はこう見えても芸歴15年を誇る、れっきとした(?)中堅演歌歌手なのである。

そして、帰京の為、駅からJRに乗り込み、都心へ戻る春美であるが、どうやら沿線の学生達の帰宅ラッシュに
ぶつかった様であり、あっと言う間に車内は満員となってしまった。
『!?、、、うっ、、、ま、全く、、、、』
そして、あっと言う間に視界を遮られてしまう春美。

そう、、、、春美は(かなりな)小柄であったのである。
先程の握手会でのおバ様達からは懐かしがられるのも、当然、彼女たちの女学生時分の平均身長である、
140cmそこそこの身長しかない春美なのであった。

これでも懸命に10cm近いヒールを履いているのであるが、それでも160cmにも届かぬ体格とあっては、
昨今の高校生、どころか中学生の平均身長よりも余裕(?)で低い春美なのである。

現に、今、自分を見下ろす壁のごとく周囲に聳える(?)若者たちは、耳に入ってくる会話からどうやら
中学生らしいではないか。

『ふぅ、、全く、最近の子はホント、発育が良すぎて、、、、、』
周囲の壁(?)を見上げながらも、内心で愚痴をこぼさずに入られぬ春美。
これでも、デビューしたての頃は人よりやや小柄であるが、それも少し遅いだけ。きっと自分もせめて
平均身長くらいは伸びるだろう、、、、と期待したものであったが、、、、

『ふん、良いのよ、別に、身長で歌う訳じゃないんだから、、、、今度の歌、けっこう良い感じだったわ、、』
いつまでも、手に入らないものを願う様な、不毛な考えを続けてもしかたがない。
身長の事等、さっさと忘れて気持ちを切り替え、本業へと集中する春美。

そう、春美が幼い頃から憧れた歌手の世界、しかし、春美は選んだのは『演歌歌手』なのである。

ちなみに、この件では、今の所属会社でのデビュー時にも、随分とモめたのである。
春美の身長や年齢から言って、普通にアイドル歌手で押したい会社と、どうしても演歌歌手で行きたい春美。
そう、高校一年でデビューした時の春美は、その小柄な身長はともかく、かなりな童顔であり、正直どう見ても
演歌歌手向きとは思えなかったものであった。

だが、春美の熱意に負け、同意してくれた事務所の(前)社長の意向により、演歌歌手でデビューして、はや
15年。地味な営業活動により、少しずつファンも増えてきた春美なのだ。
心を込めて日本の歌、演歌を歌う事で大勢の人に心の暖かいものを伝えたい、、、こんな時代だからこそ、、
先程の、自分を応援してくれた大勢のファンを思い出せば、それが叶っている今に何が不満があろう、、、、

だが、、、、、正直、、、そろそろここいらでブレイクしたい、、、、、と思うのもまた事実ではある。
しかし、弱小事務所の中堅演歌歌手では、いったい何をどうすれば良いのやら、、、、、、
そんな悩みを抱える春美を乗せ、電車はやがて都内へと入って行った。


「ただ今戻りましたぁっ!!」
「あっ、春美ちゃん、お疲れさま」「お疲れさまでした。」
事務所に戻って挨拶する春美と、それに応じる社員達。

「社長、ただいま戻りました。」
「はぃ、御苦労様、どう、、新しい歌、、、ちょっとこっちで打ち合わせしましょう、待ってたのよ。」
事務所の中を社員に挨拶しながら、最奥の社長の机へと移動した春美が、改めて挨拶すると、社長はそれを
笑顔で受け止めながらも、経営者としての厳しさをもって、今後の方針を検討するべく、春美を会議室へと誘う。

そう、彼女こそ亡夫の立ち上げた弱小芸能事務所を中堅にまで押し上げ、今また更に上を目指している、春美を
デビュー当時から公私に渡って面倒見ている大恩人で、かつスーパーキャリアウーマン**紀子(38)である。

そして、打ち合わせを終え、会議室を出てきた2人。
「それじゃぁ、明日は久しぶりのお休みね、、薫くんも待ってるわよ。」
「本当にいつもありがとうございます。巡業の度に預かってもらえるなんて、ホント助かります。」
「あら、何、水臭い事言わないで、薫くんは、それこそ生まれる前から知ってるだから、、迷惑じゃなければ、
 自分の子供のつもりでもいるのよ、、、、それにあなたが安心して歌える環境を整えるのも社長の仕事。」
「迷惑だなんて、、ありがとうございます。」

そんな会話を交わしながら、春美を事務所の出口へと送って行く紀子。
すると、それに気付いた一人のやや軽薄そうな営業部員が、慌てて声を掛けてきた。
「あれっ、春美さん、もうお帰りですか、なら、お疲れのとこ済みませんが『アレ』お願い出来ませんか?」
そんな部員の依頼に、さすがに顔を顰めて窘める紀子。

「ちょっとちょっと、春美、疲れてるのよ、、そんな『下らない』こと、、、、」
「あら、良いですよ、社長。それに『アレ』家の子にもウケが良いし、、、、」
「えっ!?薫くん、まだ見てるの?」
「えぇ、そぉなんです、、、もう男の子で五年生にもなるのにねぇ、、、、、、あっ、良いですか、、」
そんな社長との会話の最中、同意を得られて慌てて準備をし終えた部員が合図をすると、それに気付いた春美は
エヘン、オホンとばかりにやや芝居じみた咳払いをして、用意して始めた事とは、、、、、、、、、

「**ちゃん、元気してた?キュ○ブ○ッ○ムだよっ!!」
すると、事務所のあちこちから暖かみを込めたくすくすと言う、忍び笑いが起こり始める。
そう、春美も今時の芸能人(?)。やはり持ちネタの一つや二つは持っているのである。

そして、春美の一番の芸と言えば、やはり、元々の地声であった、いわゆるアニメ声を、更に習得した(?)
プロの技術で変調して自在に操れて喋れると言ういわゆる声真似芸、それも様々な声優での声真似が出来ると
言う、最早立派な特技とさえ言える自慢の技なのであった。

ちなみに、その特技がなぜ『こう』なったかと言えば、始めは某シリーズ当初、まだ幼稚園児であった薫が、
幼稚園の女の子達が見ている。と言うので見て見ただけのアニメ番組に、幼い薫の心のどこかに触れたのか、
なぜか夢中になって毎週欠かさず見る様になってしまった事から始まる。

そして、単に子供を喜ばせたいと言う単純な親心から、ある時、薫の幼稚園のお向かえの際、回りの子供が
持っていたキュ○ブ○ックの縫いぐるみで、簡単な声真似着きで人形遊びをしたら、これが予想外の大受けと
なってしまったのだ。

そして、それがツボにでも嵌まってしまったのか、欠かさずシリーズ全てを見る様になってしまった薫に
せがまれ、時折、声真似で遊んであげていた春美であったが、それをたまたま職場の同僚に見られてしまい、
なぜだかそれが社内で広がってしまったのであろうか、ある時、小さな子供が居るという営業部員から、
『お願い出来ないでしょうか?』と頼まれて、軽い気持ちで引き受けてしまった事なのだが、、、、、

まぁ、ニセ者の声で子供にウケを狙う父親、そしてそれの片棒を担ぐ自分。と言う事に内心、忸怩たる思いも
無いでは無いが、やはり同じ小さな子供を家族に持つ身であれば、『子供が喜ぶ』と言われてしまえば、
やはり無下にも断る事の出来ない心優しい春美は、ついこうして時折、リクエストに応じて偽プ○キュアを
演じているのだった。

正直、『騙している』との気持ちもあるにはあるのだが、まぁ、これも子供が小さなほんの少しの間だけの
事である。と自分を納得させた春美だが、それにしてもデビュー当時は、このアニメ声が春美の悩みの種で
あり、それを克服するのに随分と練習もしたものであるが、それが、今になって、こうして一つの芸(?)に
なろうとは、、世の中、何が幸い(?)するか、ホント判らぬものである。。

そんな事を思いつつ、春美は簡単な会話、と言うか台詞をいくつか述べた後、それを録音出来て感謝の言葉で
応じる営業部員に応じながら、久々に自宅へ帰るべく事務所を後にした。

「、、じゃぁね、みんなのハートをキ○ッチだよ。」
「、、、、、、ありがとうございましたぁっ、、、これがあると、ホント、親父の威厳が、、、、」
決め台詞まで述べてもらって、無事録音を終えた部員は、これまた芝居じみた仕草で深々と春美に一礼をする。

『あ、あの、来年からは、スィー○プリキ○ア、って言う、、、、、』
物まねに感動したのか、延々と続きそうな部員の熱い(?)話が、もはや春美が去るのにもかかわらず
始まりかけている様であるのだが、ふと、春美の胸に過るのは、、はて、はたして、先程の声真似、ホントに
子供のためなのであろうか、、、、、

それにしては妙に詳しい様であるが、、、、、そんな違和感を持ちつつも久々に自宅へと向かう春美であった。

『ふぅっ、やっと着いた、、、、』
かちゃ、、、、
小規模ながらも、セキュリティの厳重なマンション、オートロックを抜け、エントランスを通り、やっと
自室の前で安堵のため息をつきながら、ようやく帰宅できた喜びと共にカギを開ける春美。

「ただいまぁ、、薫、、ママ、帰ったわよぉ、、、」
「あっ、ママ、おかえりなさぁーぃっ!!」
春美の声とほぼ同時に、未だ変声期前のカン高い少年の声が室内から出迎え、一緒に一人の少年が転がるかの
様に玄関へ向かって来た。

「ただいま、薫、ちゃんと社長さんのお家で良い子にしてたかな、、、、」
「うん、もちろんだよぉっ、だって、もぅ5年生だよぉ、、ぼく、、そんな子供扱いしないでよぉ、、、」
しかし、そう言う口調は久々に巡業帰りの母に会えた嬉しさからか、妙に甘えた口ぶりであるのが見え見えで
あり、ぷん、とばかりにやや唇を尖らせて言う様は、幼児の頃となんら変わってはいない様に見える。

そして、やはり、久しぶりに我が子に会えた嬉しさからか春美もつい、薫の頭に手を乗せて微笑みながら、
こう口にする。
「うぅーーん、でも、ちっちゃい頃とあんまり変わってないかなぁ、、、薫ちゃんは、、、、」
そして、それを言われると、更にはほっぺたまで膨らませて不満の意を表しながらも、
どこか嬉しげに反論する薫。

「えぇ、そんな事ないよぉ、ちゃんと背だって伸びてるよぉ、だってママよりももぉ、ボク、大きいもんっ。」
「あぁっ、言ったなぁ、大きいって言っても、ほんの数cmじゃないのよぉっ!!」
「へへぇっ、、それでも大きいのには変わりはないものねぇ、、、」
そう、、小柄な自分に似てしまったのか、同じ位に小柄であった春美の一人息子の薫。
相変わらず、クラスでも身長順で言えば最前列が指定席であり、それを何よりも本人が一番気にする薫である。

だが、幸い(?)それでも少しずつ背は伸びている様であり、最近ようやっとではあるが、春美の身長を
追い越してしまったのだ。
もっとも、クラス全体も同じ様に成長しているため、身長順での順番は相変わらず同じ指定席であったが。

それでも、母を追い越せた事がよほど嬉しいのか、事あるごとにそれをネタに母との会話を楽しむ薫であり、
誰よりも、愛しい一人息子の成長が嬉しく無い訳が無い春美もまた、それをネタにからかっては息子との
会話を楽しむ春美であった。

シングルマザーでの寂しさはあるものの、事務所の社長を始め、大勢のスタッフに支えられ、ここまで
真っすぐに育ってくれた一人息子とのたった2人の家族である。

そんなたわいない会話を何よりも大切に思いながら、息子と共にリビングへと向かう春美であった。



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