新婚旅行ー02

ようやく目的地である温泉場の旅館に着いた一行。

「あ、、、あの、、予約しておいたものですが、、、、」
「ようこそ、いらっしゃいました、それでは失礼ですが、、お名前を戴けますか?」
「、、、、、い、、、井川、、でございます、、、、、」
受付に現れた美熟女に、マニュアル通りの応対をする仲居であるが、その笑みを浮かべた瞳は、
さりげなくプロの視線でそれとなくお客を観察する。
年齢は若々しく見えるものの30代なのは間違いない。
それに全身から匂い発つ様な色気から、人妻であることも間違い無いであろう。
と、今時珍しい、その若さで高級そうな和服に身を包み、見るからに品の良さげな美熟女を観察する仲居は、
その女性の背後に、今風の制服を来た、雰囲気のよく似た少女が立っている事に気付き、
単なる家族旅行か何かと納得してしまう。

だが、母親も娘もどこか辛そうな表情に見受けられるのは、はて体調不良なのではないだろうか?

とそこまで考えた受付の仲居であったが、その背後から声を掛けるものがいた。
「、、、、、、、?、、、、、は、春川さん?、、、春川さんよね!?」
振り替えれば、この旅館の若女将がその泊り客へと声を掛けて来たのだ。

そう、実は、かつて佳代夫人が、この忘れ得ぬ新婚旅行の思いでの場所であるこの旅館を訪れた際、
なんと偶然、同い年、そして同じ新婚でもあった仲居夫婦がいたのであった。

そして、その際、世間話ついでの際、同い年であり、新婚である事も一緒であることを知ったお互いは、
その奇遇さのあまりに、新婚旅行で若干ハイになっていたこともあって、思わず互いに連絡先を交換し合い、
それから今日まで、義理堅い佳代は、年賀状などを含め、欠かさず連絡を取り合っていたのだ。

そして、年月が流れ、いつしか新米の仲居は今や、代替わりを済ませ、立派な若女将として
この旅館を切り盛りしていたのであった。

だが、当然ではあるが、春川母子の近況など知るよしもないその若女将は、ただ単純に再開を喜んでいる。
「もぉ、来るなら前もって連絡してくれたら良かったのにぃ、、でも、、、あなた、ほんと変わらないわねぇ、、、」
と、再会を喜びはするものの、つい自分と同い年とは思えぬ美熟女の尋常ではない若々しさに、
思わず感嘆の声を上げてしまう若女将であった。

それに比べて自分は、、、、、、若くしてそれなりの規模の旅館を切り盛りする苦労のせいであろうか、
如何にアンチエイジングに固執しても、近頃めっきりお化粧の載りも悪くなる一方(!?)。
それにひきかえ、目の前の女性はとても同い年には見えぬ、、、、、
そう言えば、たしか手紙で、高校三年にもなる子供まで居ると聞いていたはずなのだが、、、、、、、

もちろん、それは当初の若々しさに加え、最近では新鮮な男性ホルモンの塊を、それこそ朝昼番、全身に、いや、
胎内にまで、まさに浴びる位に注がれ続けた結果であるからなのだが、そんな事など知る由も無い若女将であった。

だが、思わず、妬ましい一念の女の暗黒面に堕ちそうになってしまった若女将は、懸命に理性を振り絞り明るい話題を振ってみる。
「、、、、こ、、今回は、ご家族で旅行?、相変わらずの仲良し母娘ね。」
と、そこまで口にした後、なにやら違和感を覚える若女将。
目の前の光景から思わず「仲良し母娘」と言ってしまったが、はて?春川家はたしか一人息子であったはずだが、、、、、、、、

と思い直し、思わず『あれ、たしかお子さんは、、』と若女将が疑問に思う間もなく、そのお客である旧知の美熟女の背後から
声を掛ける者が現れた。
「おっ?、知り合いかぃ?なんだ、それなら丁度良いや、昔馴染みってことで是非お安くしといてくれよ。」
と、自分に声を掛ける男に視線を向けた女将であったが、その先に見たものに思わず唖然としてしまう。

なんとそこには貧相な初老の男がニヤニヤと見るからに下品そうな薄ら笑いを浮かべて立っていたのだ。
そして、それを見て、思わず新入りの営繕係かなにかとしか思えなかった仲居であるが、それも無理からぬ事であろう。
なんと、その男は旅館の受付に相応しからざる衣装、薄汚れ皺くちゃ所々破れた箇所すらある作業着を着て立っているのだから。

状況が掴めず、思わず佳代夫人へと視線を移す若女将であったが、更に驚くべき言葉が、その初老の男の口から飛び出てきた。
「ひょっとしてあんたが女将の花子さんかぃ?、あぁ、佳代から聞いてるよ、お世話になるぜ。」
馴れ馴れしく自分の名前を呼ぶだけでなく、なんとその令夫人の事まで、呼び捨てにする初老の男に、
もはや唖然どころか愕然とするしかない若女将。

『か、、、佳代って、呼び捨てって、、、』

そして、そんな若女将の表情に、妙に楽しげに聞かれてもいない事まで吹聴しようとする井川。
「おぉ?、なんか驚いてるけど、ひょっとしてお前まだ言ってなったのか?お友だちに不義理はいけねぇなぁ、、いやぁ、実は俺は、」
「止めて、止めて下さいましっ、井川さんっ」
「、、、、あぁ!?なんだってぇ?、、よく聞こえなかったなぁ、、、、」
と、そう言いながらかおるに近付く井川の言動に、自分の過ちを気付かされた佳代夫人は、屈辱に震えながらも、
人質同然の息子を守るため、遂に自らの言葉で真実(?)を言わねばならなくなってしまった。

「、、、ご、ごめんなさい、、、、、、あ、あなた、、」
と、遂に自らの口で、憎んでも飽き足らぬ男を『あなた』と呼んでしまった佳代夫人。
その旧知のお客が口にした単語を信じられぬ若女将は、ただただ呆然と佳代夫人を見つめる事しか出来なかった。
そして、その視線の先にいる美熟女は、自分が口にしてしまったその単語の意味を補足するべく、
ひきつりながらもなんとか笑みを浮かべて若女将へ向けて、言葉を続ける。

「あ、、、あの、、、、連絡しないでおいて、、ご、、ごめんなさいね、、、、山田さん、、、、」
「、、、、わ、、私、、、実は、、、再婚したんですの、、、、こ、、こちらの男性と、、、、」
「、、井川さんと、、言うお方で、、、、か、、かおるの、学校の、、よ、、用務員をなさっているのよ、、、」
新しい主人(?)の名前だけでなく、職業で述べた時点で、もはや堪えきれなくなった哀れな美熟女は、
言葉に詰まり、そっと目を伏せずにはいられなかった。

そして、その恥辱に震える新妻(?)の姿を堪能していたが、格好の羞恥責めの対象の出現に気を良くした井川が、
説明の後を引き継ぎ、若女将や自分の新妻へと声を掛けた。
「ひひひひ、、それだけじゃねぇだろぅ、、まぁ、良いや、せっかく昔の知り合いに会えたのに、立ち話もなんだろう。
 おぅ、ねえちゃん、さっさと部屋へ案内してくんな。それからそっちのオバチャンの女将は、後で部屋に来い。
 どっちみち女将は部屋に挨拶に来るのが常識だろ、まぁ、そこで積る話でもしようじゃねぇか。」

そして、それだけ言うと、さっさと受付から旅館内へと向かう井川であった。
そして、促されて慌てて、その泊まり客を先導する若い仲居の後に続きながら、この自分の奴隷へと堕ちた令夫人を
如何にして辱しめようかと、年甲斐もなく興奮を抑えきれぬ井川であり、約束されてしまった恥辱責めの情けなさに
ただ怯えるしかない佳代夫人は、その不幸な再会をしてしまった知人から逃げるかの様に、
夫となってしまったその初老の男の後を、息子のかおる共々追いかける事しか出来ず、
若女将の花子もまた、旧知の泊り客からの言葉を信じられずに、ただ呆然とその一行の背中を見つめる事しか出来なかった。



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