新たな生贄-00-00




「理事長は甘すぎます!!」
「まぁ、待ってちょうだい、、校長先生、、、少し落ち着いて、、、」
「これが、、これが、、、、いいですか、、理事長!!」

都内某所の某高校の理事長室で交わされている激論。
その私立高校、歴史こそ20年程に過ぎぬが自由な校風と闊達な雰囲気で知られ、まだ名門と言う程の
歴史はないのだが、大学進学者数もそれなりに順調であり、将来が楽しみな学校であった。

そして、その学校を頻るのは2人の女傑、、女だてらに理事長を努める西川真佐美と校長、山田令子であった。
だが、常日頃、女性同志、協力し様々な難問を対処してきた2人だったが、今回は珍しく意見が対立している。

問題は、いわゆる「不純異性交遊」であった。

3年生同士の男女が、いわゆる「深い仲」になってしまい、それが生徒同士の間で口コミで広がり始めたのだ。
幸い生徒の親、並びにその他の父兄には未だ知られておらず、その「うわさ」の段階で把握したある教師からの
報告を受け、担任が調査。
そして、その後の対応を巡り、理事長と校長で意見が合わず、延々と激論を交わしていたのだ。

調査の結果、どうやら「無理やり」でも、まして「金銭絡み」でもない事は判明。
場所も如何わしい「ホテル」等でもない。
また、養護教諭等の協力もあり、確認したところ、女生徒に「妊娠」などの事実もなかったのだ。

そして、日頃、折に触れ、学園の生徒達とコミニュケーションを図っている理事長は、なによりも、当の男女の
生徒の人となりをよく知っており、決して軽率な、そして無分別な事などする生徒ではないから、できれば、
穏便に済ませたい。との方向なのだ。

だが、かたや校長は、高校生でありながら、いわゆる「不適切な関係」になった事自体を重視。
厳罰、「退学」を主張している。

「いぃですか、理事長!!、だいたい、、」
「ちょっと待って下さい、校長先生、私の話を聞いて、、、」
激高しかねない校長を諭す、理事長。
いかに興奮していても、それなりに経験を積んだ社会人である。
10も年上の先輩女性に窘められれば、さすがに口を閉ざさずにはいられない。

「確かに、私も彼らが正しいとは思いません、そんな事は言いません。」
「確かに高校生、しかも同じ学校の生徒同士が『肉体関係』になるなど、、、、」
「、、、!?、、、だったら!!、、、」
我が意を得たり。とばかりに口を開き掛けるが、理事長の言葉はまだ続いていた。

「でも、、、山田先生、、、、先生もホントはお分かりの筈ですわ、、、、」
先程までの『校長先生』から、いきなり名前を呼ばれ、戸惑う校長であったが、すかさずその隙を逃さず、
説得を続ける理事長。

「あの子達だって、とっても悩んでいたんです、、、でも、、高まる気持ちを抑え切れなかった、、、」
「突然の思いつきや衝動では無いんですわ、、、だって、場所だって、彼女の家だし、、なによりも
 ちゃんと避妊をしていたって言うじゃないですか。」
「若い時、、恋人同士、、何度か会う内に、、先生だって、ご経験がおありでしょう、、、」
諭す様に語る理事長の視線がチラリと卓上の写真立てに注がれる。


そして、その仕草の意味するところを理解した校長は、思わず同意しかけてしまう。
「、、、、、え、、えぇ、、まぁ、、、そ、れは、、、」
すると、ここぞとばかりにたたみか掛ける理事長。

「それにあの子達は本分である学業も決して疎かにしてはいないでしょう。前回の試験結果だって、2人共
 結果は上がっているって言うじゃないですか。」
「、、、、そ、うですけど、、、」
「でしたら、そんな一度の事で『退学』なんておっしゃらず、どうか暖かい目で見守る事こそ、真の教育者。
 我々、大人のするべき事じゃないでしょうか、、、、」

搦め手から攻められ、正論での説得。
もはや、校長の反論は封じられたも同様であった。
だが、完全敗北を認めぬ校長は、意地だけで抵抗を試みる。
「、、、、で、も、、、あの子達へは、、、」

しかし、そんな抵抗もあっさりと受け止める理事長の笑顔の言葉の前に、もはや黙るしかない校長であった。
「えぇ、、あの子達へは私から伝えますわ、、、多分、こういうことは担任の先生や校長先生よりも
 私からの方が良いと思いますので、、、」

「、、、そうですか、、わかりました、、、それでは、失礼致しますわ、、」
もはや、事件の主導権は完全に自分の手から離れてしまったと言う事を痛感させられた校長は、先程までの
勢いも無く、理事長室を後にするしかない。

そして、そのドアを開けた瞬間、、、
「、、、、、!?、、、、!!、、あ、、あなた達、、こんな所で、、」
「校長先生、退学なんてヒドイと思いますっ!!」
「則子は、いえ、田中君だって悪くなんかないんですっ!!」

なんとそのドアの向こうには、大勢の女子生徒が廊下を埋め尽くしていたのである。
その奥にはそもそもの発端となった1組の男女が、不安そうな面持ちでこちらを見ている。
そして、その2人を囲む少女たちは、口々にその恋人同士を慰め、憤りをこちらに向けている。

おそらく、なんらかの処分を下されるであろう、その2人を援護するべく、集まったのはいいのだが、
具体的に何をどう出来る訳でもなく、とりあえず首脳会談(?)が行われているらしい理事長室の前に
来てしまった。というとこらしい。

そんな年下の少女たちに理不尽な憤りをぶつけられ、やや落ち着いていた校長の気持ちが再び荒れ始める。
『くっ!!、、、なんで、そんな目で私を見るのよ、、だいたい、もとはと言えば、その2人が、、』
そして、校長がその憤怒の思いを爆発させようとした瞬間、、、

「あらあら、、すごい人ねぇ、、、こんなに若い女の子がいっぱいだなんて、、オバさん、照れちゃうわ、、」
校長の背後から、わざとノンビリした口調で理事長が現れた。
そして、気勢を殺がれた一同の隙を狙い、目ざとく人込みの後ろに目的の人物を見つけると、
すかさず声をかけた。

「あ、則子さん、、田中君、、ちょうどよかったわ、、ちょっといらっしゃい、、お2人に話があるの、、、」
どこまでも、物腰柔らかく、そして上品に声を掛ける美貌の熟女の誘いにフラフラと招かれて行く2人。
そして、そんな2人が理事長室内に入り、扉がバタンと閉まった瞬間、はっと我れに還った少女たちは、
再び、取り残された感じの校長に詰め寄り始めてしまったのだ。

「校長先生、どうなんですか?」
「悪くないと思うんです、退学なんてあんまりです。」
若者特有の思い込みだけの行動に巻き込まれた形の校長。
だが、さすがに喉元まで出かかった
『知らないわよっ!!理事長先生に聞いてっ!!』
の台詞を飲み込んだのは、やはり校長としての矜持であろうか、、、、、

「待ちなさい、あなた達、、誰が退学と決めたのですか?」
自分自身が、誰よりも退学派であった事などおくびにもださず、静かに問いただす校長。
「それに、今、あぁして理事長先生がお話しているのよ、、、かえって軽率な行動はあの2人の迷惑に
 なるんじゃないかしら?」

理事長には手玉に取られた感じはあるが、烏合の衆である女子高生など校長にとってただの小娘に過ぎない。
正論で諭し、黙らせた校長はすかさずその隙をつき、その場を離れるのであった。
「判ったわね、、それでは理事長先生のお話が終わるのを待ちなさい。」
「それで、もし、なにか不満があるのであれば、その時は聞きますから、、、良いですね。」

そして、後に残された少女たちは、ただ不安げにその立派な理事長室の扉を眺めるしかなかった。


その頃、室内では、、、、
「、、まぁ、お座りなさい、、2人共、、、」
そう言ってソファに2人を座らせた理事長が、その対面に座り、ゆっくりと少年と少女を眺めた。
学園での最上位者からの視線に耐え切れず、思わずうつむく若い2人。

そして、理事長が口を開くより早く、沈黙に耐え切れず少年が話し出す。
「、、あ、、あの、則子は悪くないんですっ!!、僕が、僕が、、そ、その、、」
「うぅんっ、違うんです、田中君は、、私が、、私から、、その、、」
話が核心に近付くと、思わず頬そめ再びうつむく2人。

『、、あぁ、、なんて、初々しいの、、、2人共、、、』
その2人の恋人同士の様子に、思わず暖かいものが込み上げて来た理事長は、ゆっくりと口を開いた。
「あらっ?悪いことをしたの、、2人共?」
「、、えっ?」「、、、えっ?」

意表を突いた理事長からの問いかけに、思わず問い直す2人。
「だから、、そんなに悪いコト、、したのかしら、、あなた達、、、」
「、、、だ、、だって、、、そ、その、、」「、、あんな、こと、、」
「あらっ、、だって、2人で決めたんでしょ。セックスするって。」

そのあまりに露骨な表現に、まさに熟れた柿の如く、耳まで真っ赤に染めて恥じらい合う2人。
「、、大好きで、、どうしようもないくらいに、大好きで、、一緒に居たくって、、、一緒になりたくって、、 
もぉ、ホントにどうしようもないくらいに思いが募って、、迷って、、悩んで、、、それでもやっぱり
 一緒になりたくって、、、、それで、2人で決めたんでしょ、、、セックスするって。」

まさに自分たちの思いの全てを言い表してくれた、目の前の美女の言葉に、思わず感極まってしまう2人。
「、、、せ、、先生、、」「、、先生、、、」
万感の思いを込めて呟く若い恋人同士の瞳から、透き通る様な滴が零れ落ちる。

「女の子にとって初めてって、、、特別よね、、、、平気だった?」
そう、優しく問われた則子は、その時の事を思い出したのか、まさにキラキラと目映いばかりに瞳を輝かせ、
大きくうなずいた。
「、、、ハ、、ハィ、、ハィッ!!」

そして、同じ様に優しく少年へ問いかける理事長。
「、、ちゃんと女の子に優しくできたかな?」
「、、、、ハィッ!!」
思わず反射的に答えた少年であったが、先程からの問答でやや落ち着いたのか少女が可愛らしい唇を
とがらせて、異論を挟む。

「、、ぇーーーっ?、、イタかったよぉ、、、」
「、、えっ!?、、だって、、オレ、、初めててで、、、」
「だって、イタかったもん、、優しくしてって言ったのにぃ、、」
「、、だって、、オレだって、、」「、、知らないっ!!」

『あぁーーぁ、、完全に押されてるわ、、、まぁ、最近の男の子はこんなもんかな、、、』
もはや、場所さえ忘れ、完全に痴話喧嘩となって来た2人の会話を聞きながら、そのあまりの初々しさに
顔の緩みを懸命に堪える理事長。

「うふふ、でも、ちゃんと避妊したんでしょ、、偉いぞ、、さすが男の子っ!!」
「、、ハ、ハィツ!!それは、、ちゃんと、、、」
「ほらぁ、、男のだってちゃんと考えてるんだから、、許してあげなさい。」
「、、、、えぇーーーー、、、、はぁーーぃ、、」
年上の美女に窘められ、不承不承頷く少女。
かたや、美貌の熟女に褒められた少年は、まさに天にも昇らんばかりに気持ちは舞い上がる。

「、、でもっ!!、、、ちょっと早過ぎますっ!!」
すると、そんな舞い上がった気持ちを一気に冷却するかの如く、突然のカミナリが落ちた。

「あなた達の本分は学生なの、、それもまだ高校生、、親御さんだってもしバレたらどんなにか心配か。」
「だから、、、基本、我慢っ!!、、あと他に熱中してみる、音楽でも趣味でもスポーツでも、、、」
「、、、でも、、どうしても、、どーーしてもっ、我慢出来なくなったら、、、ちゃんと避妊することっ!!」
「以上、お話終わりっ!!、、ハィッ!!解散っ!!」

そこまで一気に話した理事長が、おおげさに両手を打って立ち上がる。
そして、そのあまりに唐突な結論におもわず聞き直す2人。

「、、、、!?、、??、、え?、、えっ!?、、、えぇっ!?」
「、、、あ、、あの、、終わりって、、、先生、、、」
「だから、終わりよ、、ほら、理事長先生は忙しいの、、ほらほら、、」
「、、あ、の、、僕たち、、退学じゃ、、、」
「そんなコトの一度位で、退学になんかしませんよ、、、うふふふ、、」
「ほらっ、外でお友達達が心配して待ってるわよ、、早く安心させてあげなさい、、、」
「、、、あ、、ありがとうございましたぁっ!!」

弾かれた様に慌てて起立し、深々とお辞儀をする2人の恋人たち。
まさかにも、こんなあっさりと不問になるとは思わなかった2人は、我が身の幸運を信じられぬまま
フラフラと扉を開け、外にでた。

「ねぇ、、どうだった?、、大丈夫だった?」
扉の閉まる間際、心配そうに問いかける級友達の質問に、満面の笑みで答える少女であるが、残念ながら
そこから先は扉が閉まり、聞く事は出来なかった。

だが、かすかに漏れ伝わる黄色い歓声が、彼女の下した結論を少女たちが好意的に受け止めた印であろう事は
概ね間違いなかった。

その少女たちの声を聞きながら、執務に戻る理事長であった。



そして、そんな出来事から数日後、、、

その久々に起りかけた学園内のモメ事を処理した、その結果に満足しながらも、執務の合間、
再び卓上の写真立てに暖かい眼差しを向ける理事長。

そこには幼子を抱いた少女に寄り添う男性、1組の幸せそうな若夫婦の写真と利発そうな少年と少女を
真ん中に若夫婦が左右に並ぶ、これまた1組の幸せそうな家族写真が並んでいた。

『、、あなたをあんな若さで産んだ私が、『ダメ』なんて言えないわよね、、おまけにその時の娘まで
 あんな若い時に子供を産んでいるんですもの、、、、、』

そう、この理事長こそ、真由美の実の母親。
都内某所の某私立学園の理事長を勤める西川真佐美(52歳:未亡人)であったのだ。

そして、ふと、決して平坦ではなかった自分の半生に思いを巡らせる真佐美。
そう、、あの若さゆえの過ちを起こしてしまった少女、、、あれはまさにかつての自分ではないか、、、、
だが、あの時、、あのただの一度の行為で、あの時、自分は身籠もってしまった、、、、、
もちろん、決してそれを後悔等はしていない。

あの頃では、高校こそ、さすがに中退せざるを得なかったが、幸い自分の実家の理解が得られ、無事、
真由美を出産。
このまま、愛しい想い人との、平穏であるが退屈な生活かと思っていたのだが、それは誤解であった。

資産家の御曹司であった彼は、その恵まれた立場に安穏とせず、熱い情熱を持った男であった。

『学校を作りたいんだっ!!』
そう瞳をキラキラ輝かせながら夢を語る青年、そしてその眩しい情熱に憧れていく自分、、、
『若さの可能性を信じ、、』『男女が対等であり、、』『未来への情熱を、、、』
そんな言葉に、自分の夢が重なっていく、真佐美。

『このまま、主婦で終わりたくない、、、』『自分にもまだ、可能性が、、、未来が、、、』
だが、今の自分は幼子を抱えたただの中卒の少女、、、、
『この人の役にたちたい、、』
憧れこそは、最大の原動力なのかもしれない。

正直、幼い真由美を実家に残し、勉学に集中するのは後ろめたく無い訳がない、、、、
だが、、、、やはり、まだ、自分は勉強したいのだ、、、役に立ちたいのだ、、、、、

それからの数年間はまさにあっと言う間の様であった。
育児をしながらの通学、、、高校への復学、、そして大学、、、、
その間、懸命に学園立ち上げの準備に奔走する彼、、、

そして、大学卒業と同時に晴れて、彼と結婚、、、、、
彼の親戚の中には口さがないものもいたが、育児と勉学を見事に両立させ、名門大学を首席で入学、卒業して
見せた真佐美の頑張りは、陰口さえあったものの、表だっての批判はなかった。

そして、またそれからの数年間も大変な時期であった。
未だ、実績一つ無い新設校である。それを施設を整え、人材を集め、束ね、目標を目指し、かつ生徒を集め、
導かねばならぬのだ、、、、、、

並大抵の苦労ではなかった、、、、
だが、自分には愛しい人と語り合った夢があった、、、、
その夢の為ならば、、、、

そして、夢中になって働いた数年間、、、
いつしか、真佐美は単なる学園理事長だった夫の補佐から、公式な秘書、そしてやがて理事へとなっていった。
そして、遂に真佐美の尽力で某名門校との提携に成功した功績で、副理事長とまで昇格したのだが、、、、、

それまでの激務が祟ったのであろうか、、、夫である理事長が病に倒れ、まさに急逝してしまったのだ、、、、
その時の彼の遺言もあり、また卓越した業務手腕で理事長を補佐してきた実績をかわれ、遂に理事長にまで
就任してしまったのは真佐美がまだ40の時であった。

あれから10年あまり、、、、、

無我夢中で働いてきた真佐美も既に50の大台を越えている。
なにより、若くして子供を産んだ自分に真似た訳でもなかろうが、娘の真由美まで若くして出産。
なんと18と16になる高校生の孫までいる立場になってしまったのだ。

『うふ、でも、まだ『おバァちゃん』だなんて言わせないわ、頑張るわよ、見ていて下さいね、、あなた、、』
写真立ての中、優しくほほ笑む亡夫に語りかける真佐美であった。

そんな静寂の中、、、、、
コンコンッ
『失礼してもよろしいでしょうか?』
「、、、、はぃ、、、どうぞ、、開いてるわよ、お入りなさい、、、」
「、、、、失礼しまぁーーすっ!!」

軽快なノックと共に若々しい声が聞こえて来た。
そして、真佐美の許可と共に、室内に入ってきたのは、、、、、
「、、、、あら、、あなたは、この間の、、、、」
「、、ハィッ、その際は大変お世話になりまして、ありがとうございましたっ!!」

なんと、先日の『不純異性交遊』騒ぎの張本人、則子であった。
「まさか、また何か問題ではないでしょうねぇ、、、」
軽く睨む真佐美の言葉に、慌てて腕章を示して弁解をする則子。
「違います、違います、実は私、新聞部なんです。」
「新聞部、、、それが何かしら、、、顧問の先生は職員室でしょぅ、、、」

新聞部の訪問を受ける言われの無い真佐美は、不思議そうに則子を眺める。
だが、則子は意外な事を説明し始めたのだ。

曰く、先日の自分の不始末を不問に処した理事長先生の人気が生徒間、それも特に女子の間で大人気だそうな。

思春期の少女の思いを理解し、なおかつ年頃の少年の理不尽なリビドーの爆発も受け止める柔軟な思考、、、、
そして、女性である事を思いやり、その大切さを男子に諭す寛大さ、、、
学園の理事長と言う、キャリアウーマンのトップでありながらも、ちゃんと学歴も育児も両立してきた経歴。
しかし、女性である事をいつまでも忘れずに維持し続けている、その美貌、そしてボディライン、、、
などなど、、、、、

見事な程の、少女特有の一途な思い込みに片寄った『真佐美像』に一瞬、ぼうぜんとなる真佐美。
思わず、熱く語り続ける則子を遮ってしまう。
「ち、ちょっと待って、、待ってちょうだい、、、」
語り続けている間に、自分の言葉に酔ってしまったのか、頬さえ紅潮させ瞳を輝かせて自分を見つめる少女の
様に、思わず苦笑を禁じ得ない真佐美であったが、少女の暴走は未だ収まる気配を見せない。

「私、、、、私、理事長先生みたいなステキな女性になりたいんですっ!!」
「だから、理事長先生のこと、いっぱい知りたい、、、みんなにも知ってもらいたくって、、、」
「だから、今度の学園新聞で理事長先生の特集をしようと思ってるんです。」
そこまで一気にまくしたてた少女は、今度は一転して沈黙するとその間近にいる憧れの女性に向け、熱い
視線を向ける。

『うわぁ、、これは、、今は何を言っても、、ダメね、、、』
自分に向け、憧憬の視線を向ける少女の眼差し、、、、、
真佐美もダテに10年の間、組織のトップにいた訳ではない。
目の前の少女の勢いに、とりあえず今は無理に抑えず流した方が良いと判断し、やんわりと諭し始める。

「うーーんっ、、、判りました、、、じゃぁ、とりあえず、簡単な履歴から言いますからね、、それで良い?」
「あ、、は、はぃ、、あっ、ちょっと待って下さい、、準備しちゃいますから、、えぇーっと、、」
あっさり同意してもらった少女は、かえってそのあっけなさに驚きながら、慌ててメモの準備を始める。
それと同時に携帯電話で録音を開始しようとするところは、さすがにそれらを使いこなす現代の若者であろう。

「うーーん、、何から話そうかしら、、、そうね、、単純に最初からね、、」
「まず、、名前は西川真佐美、、195*年産まれの当年とって5*歳、、、」
「えっ!?、、、エェーーーッ!!うそ、、うちのママより10も上、、、、」
「そぉよぉ、、子供どころか『孫』だっている、『お婆ちゃん』なのよ、、うふ、興味無くなっちゃった?」

憧れの美女の年齢を知り、驚嘆した少女はからかう様な真佐美の口ぶりに、まさに扇風機の如く、首を振り、
夢中で答える。
「そ、、そんな、、私、、てっきり、、ママと同じ位なのかなぁって、、、」
「うちのママなんて、、、」

TVや雑誌、ネットの記事などで時折見かける年齢不詳の女性達は知っていたが、まさか目の前の美女が
50代であったとは思いもしなかった少女は、驚嘆の眼差しを向けながら、思わずグチが出かかるが、、
「ストォーープッ、、ちょっと待って、、則子さん、、、、」
さりげなく、発言を遮る真佐美の口調に、若干それまでとの違いを感じた少女は慌てて口を閉ざす。
この辺り、いわゆる『空気を読む』のに慣れた現代風の子供なのであろう。

「聞いてちょうだい、、あのね、、『女』にはそれぞれ年代で役割があると思うの、、、」
「あなたのお母様は今、あなたを育てるのが一番大切なの、、、それが一番大事なこと、、、」
「私だって、そぅだったわ、、、たまたま、私は子育てが早く終わったので、その分の空いた時間で、、」
「エステとかコスメ、あと、ジムとか、、、、」

「えっ、やっぱり通ってるんですか?理事長先生でも?」
「それはそうよ、、ちょっと照れちゃうけど女同士だから良いわね、、、、」
「いくつになっても女である事を忘れたくはないわ、、、、」
「あらやだ、私、何を語っちゃってるの、、、『オバさん』赤くなっちゃうわ、、、」

今風に笑いで閉めながらも、さりげなく事実を告げる真佐美。
確かに、学園の立ち上げや初期の頃はそれどころではなかったが、それも軌道に乗り始めたここ数年、
空いた時間は割りとマメにエステやジムに通い、アンチエイジングに勤しむ真佐美であったのだ。

もちろん、どう取り繕っても10代、20代の輝く様な若さが取り戻せるはずもない、、、
だが、それでもせめてもう少しなんとか、、、、と、通い続けた結果、さすがに若干身体のあちこちに
脂肪が付き、多少、緩みや弛みはみられるが、それにしても、50代とはとても思えぬ程の容姿を保っている
真佐美であった。

「うふ、ちょっと最初っから、脱線しちゃったわね、、、えぇーっと、学校は、、、」
そうして語られた女の半生に、まさに一喜一憂する則子。
それを聞き終えた時、もはや則子の中で、真佐美は憧れから神格化の一歩手前までいくほどであった。

「、、凄いです、、理事長先生、、、、わ、私、、私、、尊敬しますっ!!」
「、、うーーん、、でも、、確かに、それなりに、苦労はしたつもりだけど、、、、運も良かったのよ、、、」
「そんな事無いですっ!!絶対違います、理事長先生は凄いですっ!!」
謙遜し、若者を窘める年長者の図ではあったが、それは真佐美がどこかで認めている事でもあったのだ。

あの狂乱のバブル期、、、、
あの時代でも無ければ、学園の立ち上げ等出来なかったであろう、、、、
そして、業績の拡大、自分の昇進、、、それはまさに時代の『イケイケ』に乗ったからだっただろう、、、
そうでもなければ、若干30代の理事長など、あり得るはずもないではないか、、、、

そんな当時の事を思い出しながら、ふと卓上の写真立てでほほ笑む娘家族の写真を眺める真佐美。
『、、そぉね、、久し振りに、真由美に連絡してみようかしら、、、佐和子や昭夫共話したいし、、、』
そして、ひたすら自分を称賛する則子に苦笑交じりで応対しながら、そう娘や孫達に思いを募らせる。

それが『崩壊』の始まりである等、判るはずも無い真佐美であった、、、、、、


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