新婚家庭

登場人物
   春川佳代  (38歳) 未亡人、元**商事OL
   春川かおる (18歳) 大学生
   松下景子  (22歳) **商事OL。この春かおると婚約と共に寿退社予定。
   神田    (4*歳) **商事OL。佳代のOL時代の同僚。いわゆるアラフォーのお局様。
   竹井    (4*歳) **商事OL。佳代のOL時代の同僚。こちらもアラフォーのお局様。

あらすじ
 母子家庭の未亡人である佳代、そして、その一人息子であるかおる。
 佳代は受験の為、かおるに家庭教師として景子を雇うが、若い2人はいつしか引かれ合い愛を誓い合う。
 そして、家庭教師の甲斐あってかおるは大学に合格し、景子も就職するのだが、若い恋人たちは早々と
 婚約を決め、唐突にそれを知らされた佳代もまた、驚きはするものの、結局は同意。 

 景子の親代わりの様な立場にもなっていた佳代は、かつての自分の職場でもあった景子の勤める会社へと
 挨拶へ向かう。

 しかし、そんな幸せへの入り口に立つ景子、そして佳代とかおるの振るまいを快く思わない者がいた、、、、


序章 

「、、あ、、あの、、お久しぶりで、、、す、、、、、、、、、、、」
都心のそれなりに立派なオフィスビルの正面で、久々の再会に喜び合う(?)ある女性達がいた。。

「ホント、久しぶりねぇ、、、ちょっと、聞いたわよぉ、あんたの息子、こんどウチの課の景子と
 婚約したんだってぇ、、、」
「そぉそぉ、それで景子、なんか、もう少ししたら、さっさと辞めるらしいじゃないの、、、」

傍から、見知らぬ人が聞いていても、なにやらイヤミ全開なのが丸判りで話かけるのは、そのビルの
ある会社に勤めるOLであり、そしてまた、かつて同じくここで働いていた佳代の先輩、そしてある意味、
その会社の中では知らぬ人の無いアラフォーコンビの神田、竹井であった。

だが、久々の再会と言うのに、正直、会うなりイヤミ全開の2人からの口撃を受け、当惑の色を隠せぬ佳代。

なによりも、今日は会社に、景子の婚約相手の母、それと同時に、そこがかつての自分の職場でもあり、
その婚約、そしてそう遠く無い退社の件の説明や挨拶をするべく、久々にそこを訪問しただけなのであるが、
なぜだか、そこをまさに待ち構えていたかの様なアラフォーコンビに捕まってしまった佳代なのだ。

そして、出来れば早々に社内へ入り、当初の目的な、景子の上司(偶然にもかつての自分の上司でもある)に
挨拶をしに行きたい佳代は、なんとかその場をすぐ立ち去りたい思いで、ごく当たり障りの無い返事を
したのであるが、、、、

「、、え、えぇ、、、そうなんですの、、すみません、本当に、昔の自分と同じ様なことを、、、、」
佳代としては、単に、かつて自分が寿退社を行い、こんどは自分の息子が、また同じく会社で女性を寿退社
させる側になってしまった事を言いたかっただけなのであるが、その中の単語に過敏に反応し、その2人は
更にイヤミ全開で佳代に向かってまくし立てる。

「『昔っ!!』、、あらぁっ!?、それ、何かのイヤみかしら、、元祖寿退社の春川佳代奥様、悪かった
 わねぇ、そんな『昔』から、ずぅ〜〜とお仕事していて、こんな年増になっちゃったわよ。ふんっ。」
「ホント、、ずいぶん、とエラくなったものねぇ、あなた、、、この私達に嫌みを言うなんて。」

詰まらぬ揚げ足を取って喜ぶ(?)2人は、積年の恨み。とばかりにネチネチとイビり始めるアラフォー達。

「ふんっ、短大出たてで世間知らずのお嬢様だったあなたに、社会の作法を教えたのは誰だったかしらね。」
「その恩も忘れて、あっさりと社内結婚で退職ぅっ!?、はぁっ!?いったい何様ぁっ!!」
「しかも、今年入った新人が、すぐにも寿退社するってだけでも驚くのに、相手があなたの子供ぉ!?」
「ホント、最初、その子が結婚するって相手の名字を聞いた時、冗談でしょ!?としか思わなかったわよ。」

罵詈雑言寸前の声でその女性、春川佳代を嬲るお局OLコンビの神田と竹井。
それを聞きながら、堪えるしかないのは、まぁある程度は仕方の無い事であったのかもしれない。

かつて、佳代はこの**商事へと母校である短大を優秀な成績で卒業し、就職した。
そして、その職場で主人に見初められ、求婚、やや早目ではあるものの、めでたく寿退社をしたのである。
その後、すぐかおると言う子宝に恵まれ、まさに何にも不自由の無い生活を送っていた佳代。

そして、すくすくと成長したかおるは、美しい佳代に良く似た、とても愛らしい美少年であり、どうかすれば
女の子とすら間違われてしまう程の可愛さであった。

不幸にして、かおるの中学時代、主人が病没してしまったが、幸いに遺産、保険金等で生活に不自由は無く。
なにより、大切な一人息子のかおるを生きがいに健気にも春川家を支えてきた佳代であった。

やがて高校へと進学したかおるに、成績上は何の問題も無いのであるが、やはり受験を控えて家庭教師を
思い立った佳代は、かつての母校に相談したのだが、そこで紹介されたのが在校生の松下景子であったのだ。

現代の女子大生にもかかわらず、品行方正で清楚なお嬢様タイプであった景子を気に入った佳代は即採用。
そして、大学合格を目指す生活が始まった。

その最中、今度は不幸にして景子の両親が事故で他界、天涯孤独となってしまった景子と、未亡人であり、
母子家庭でもある佳代、そしてかおるは、これまで以上に引かれ合い、家族の様な親密さとなっていき、
景子の就職の際には、かつての自分の職場の紹介、さらにその保証人にすらなってしまう佳代であった。

そして、やはり母校が紹介する才媛でもある景子の家庭教師の甲斐あって、やがてかおるは無事に
志望大学へと合格し、それと同時期に、景子本人も、やはりその優秀な成績の甲斐あって、この就職氷河期の
最中、無事就職を果たしたのであるが、そこはやはり、かつて佳代が勤めていた**商事であった。

そして、親密さな関係となっていった3人、そんな中、若い男女であるかおると景子の間に愛が芽生えて
しまったのは、ある意味、必然であったのかもしれない。

だが、互いに学生である事から自重していた2人であったが、やはり我慢にも限界があった、、、、
だから、かおるが大学に合格、景子が卒業、社会人となった時がある意味タイミングだったのかもしれない。

そして、愛しい一人息子のかおる、そして娘の様に思っていた景子の2人が正式に自分に向け、結婚を前提の
付き合いをしている。と告白された時、母である佳代の胸に去来したものは何であろうか、、、、

当初は、若すぎる2人の告白に戸惑う佳代であったが、やはり思い起こされるのはかつての自分。

就職した先での出会いを経験し、まさに劇的なまでの早さで結ばれた自身の人生を思えば、それが再び
息子に訪れるのもまた、ある意味、運命的なものを感じてしまった佳代は暫しの逡巡の後、それを認める。

もちろん、かおるはまだ大学生になったばかりで、景子も就職したばかり、そこでとりあえずは
婚約と言うことでまずは景子が会社に報告。
しばしの間を置いて退社する旨と予定し、会社に連絡した景子であるが、そこでおそらくは人事部あたりの
お喋りOL雀でもが囁いたのであろう。

なんと、あっと言う間に、今年の新人OLがかつての社内の『お嫁さんにしたい候補No.1』であった春川佳代の
息子と結婚すると言う話が社内中に広がってしまっていた。

そして、それを正直面白く思わないのが、かつて佳代の先輩として社内にいたOLコンビ、神田と竹井である。

これでも(?)佳代が勤めていた頃は、それなりに若さ溢れるOLであったのであるが、やはり当初から
結婚退職のみを目指す、今風に言えば、バリバリ肉食系のOLであった2人は、なぜか(?)良縁に恵まれず、
未だ社内で残留していたのだ。

そして、そんなかつての新人OLも今や、立派なアラフォーお局様。社内の裏人脈を駆使し、いち早く、
新人OLの景子の話を嗅ぎ付けたコンビは、本来であれば景子だけが上司に報告する婚約話に、強引に
割り込み、佳代に会社へ挨拶に来い。と半ば命令口調で春川家に伝えたのである。

本来はそんな話、無視しても良いではあるが、やはり自分がほんの僅かしか勤めずに退社してしまった事、
更に、それと同じ事を今度は息子もその要因として、景子にさせてしまおうとしている事に、若干の
後ろめたさを感じる佳代は、それなりに筋を通すべく、こうして久々にかつての勤務先を訪れたのであった。

そして、久々に佳代と再開したアラフォーコンビはその、まさに浮世離れした若々しさに満ち溢れる、
かつての後輩を前に、おもわず年増の厭味根性を全開してしまったのである。

そんなお局コンビからに久々の攻撃に、思わず唖然とする佳代。

正直、実際のところ、かつて自分が勤務した際、その噂話好きな先輩コンビの下世話な話の連続に、憧れていた
社会人としての生活が、一気に汚された思いもあった佳代であるのだが、どうやら自分が退職してからも、いや
、まさに二十年近くに渡り熟成(?)されてきた、そのお局根性は、まさに筋金入りとなっていたようである。

だが、どうしても強きに出られぬ、生来の内向的な性格からか、まるで以前のOL生活の様にネチネチと
その嫌みを聞き続けてしまう佳代。

そこで、偶然にも、本来の目的であった、面会する予定の景子の上司が外出先から戻り、通りかからねば、
いったいその嫌みはいつまで続いたのであろうか。

しかし、お局らしく、会社の上下関係に敏感な2人は、その上司が佳代に声を掛けたと知るやいなや、
あっさりと空気を読んで、撤退、社内へと戻ってしまったのである。

そして、そのお局コンビから解放され、安堵のため息を漏らした佳代は、そのかつての上司と久々の再開の
挨拶を交わす。

そして、改めて、そんなごく普通の社会人との会話を交わす中で、ようやくにもペースを取り戻せた佳代は、
今やその幸せの絶頂にでもある事を再確認にすると、先程までとは一転した晴れ晴れとした笑顔で、自慢の
一人息子、そして新たな義娘となる景子の婚約を報告するべく、社内へと入って行く。

だが、そんな姿を、まさに妬ましさに満ち溢れる視線で未だ物陰から睨み続けている神田と竹井がいたなど、
全く気付かぬ佳代であった。



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