髭剃り

『あらっ、、そぉそぉ、、これも買っておかなくっちゃ、、』
ある日の昼下がり、夕食の支度をする為に買物へ出かけた令夫人、春川佳代は
レジ前のサニタリーグッズの場所を通る際、目に付いたモノにある事を思いだし、
腕を伸ばしてそれを手に取ると、ふと、微笑みを浮かべるのであった。

『いきなり手渡したら、いったいあの子どんな顔するかしら、、うふっ、、 
 それとも、今あるものとそっと交換しておこうかしら、きっと驚くわ、うふふふふっ
 置いてあった安物が、急にこんな立派なモノに代わっていたら、、』
手にとったシェーバーを見つめながら、幸福そうに微笑む令未亡人、春川佳代。

今朝、浴室を掃除していたら、なぜか物陰から安物のシェーバーを発見してしまった。
自分に覚えが無い以上、とうぜん、それはかおるの物に違いない。
それを、単に母親の前でヒゲを剃るのが照れくさがったかおるが、隠れて入浴中に
使用しているだけと思い込んだ佳代夫人は、そんな安物の代わりにちゃんとした物を
購入しようとしているのだ。

いつまでも子供だと子供だとばかり思っていた1人息子のかおるが、
ヒゲを剃るだなんて、、まるで大人になったみたいではないか、、、、
寂しい様な、誇らしい様な、、母として複雑な思いを抱きながらも、やはり感慨深げな
面持ちになるのは、母親ならでの心境であろうか。

『あの子がこんなモノを使う様になるなんて、、でも、もぉ、高校生ですもの、、、
 あたりまえよね、、、』
だからといって、何もコソコソ隠れて風呂場で使う事はないではないか、、
まぁ、それも思春期にありがちな少年特有の気恥ずかしさと思えば、それほど
不自然ではない。
内気な自分以上に、息子のかおるが内向的であるのは、母である自分が誰よりもよく
知っているのである。

そんな恥ずかしがりやのかおるが、母にこそこそ隠れてやっている事が、
ヒゲ剃りだとは、、、、
『うふふふっ、やっぱり、こっそり取り代えておきましょうっと、、
 かおる、、、きっと、ビックリするわっ、、、
 だめよ、かおる、ママに隠しごとだなんて、、ママはかおるの事、全部知ってるの。
 ママはかおるの事だったら、なんでもお見通しなんですからねっ。』

新品の男性用ヒゲ剃りを、ニコニコしながらカゴに入れてレジへ向かう佳代夫人。
絶世の美女とそんな品物は確かに不つりあいであったが、上品な令夫人が優雅に
微笑みを浮かべるのを見ると、なぜかそれを見た周囲の者まで幸福そうな気持ちになり
そんな些細な事、気にもならなくなってしまう。

『、、、、でも、、かおる、、、そんなに、髭、、、生えてたかしら、、』
脳裏の片隅にそんな、ごくあたりまえの疑問がチラリと浮かぶが、
「シェーバーは髭を剃る物」そのあたりまえ過ぎる常識に疑問はすぐさま消えて行く。
いかにも世間知らずの令夫人、春川佳代夫人らしい思い込みであったが、
やはり、その別な使い道に気付け。と言う方がこの場合無理であろう。

まさか、可愛い1人息子のかおるが、獣の様な教師、級友達に命じられて入浴の度、
陰毛を剃り上げている等と、育ちの良い佳代夫人に想像出来る筈もない。
屈辱のあまり、血の涙を流しながら、自宅の浴室で股間に髭剃りを当てている、
愛しい母に気付かれまい、心配をかけまいと、注意しながら剃り上げているかおるの
恥辱等、想像の果てにあるのだろう。

自分の些細ないたずらがかおるを驚かすと信じて、微笑みながら帰宅していく佳代夫人。
実際にはそれに気付いたかおるは、当の佳代夫人も狼狽する程に仰天するのだが、
その息子の狼狽ぶりなど、今は思いもしない佳代夫人である。

しかし、この高級シェーバー、、、決して無駄にはならないのである、、、、
なぜなら、ほんの数ヶ月後には、その本来の使用目的からやや逸れた、春川家独自の
使用法、、かおるがナニに使っていたかの正体を佳代夫人も知るのであり、
それどころか、その頃は佳代夫人自身、その同じシェーバーを使い、かおると同じ様に
屈辱に喘ぎながら、股間を泡立てて、懸命に剃り上げる日々となるのだ。

もっとも、ひたすら自分の子供じみた思い付きで、豊かな胸をワクワクと弾ませながら、
そそくさと家路をたどる今の佳代夫人は、それを知る筈も無かったのだが、、、、


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